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新一は駆ける。 イカレサンタの情報と引き換えに自分が渡した紙切れに書かれていた場所に向かって− |
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「おや、これはこれは・・・可愛いお嬢さんたちの登場だ。」 キッドの困惑ぶりに苦笑をこぼしつつ、紅いシルクハットの男は彼女たちに近づいていく。 「−よせっ!!逃げろ!青子!!」 いつもの、鼻にかかった気障な声音ではない−その声は、 幼馴染のそれそのもの。 青子は目を見開く。 「かい・・・と?」 呆然としている青子の手を取って、先に動いたのは蘭。隣の古い開きビルに入ると、階段を駆け上って 屋上へと向かう。 憎しみに捕われた紅いシルクハットの男は彼女たちのあとを追う。 「−待て!」 キッドも彼の後を追った。 たんたん、と駆け上る足。 もっと早く− 早く!! 反対側の路地から城のような建物−敵の本拠地だと思われる−にたどり着いた新一は、中へと入っていく。 まるで一部始終を見ていたかのようにキッドと同じ行動を取り、彼は奥に足を進めた。奥の部屋で、自分の 推理への確信を得ると、新一はだっと外へ飛び出す。 その耳が、反対側の路地の方角からの喧騒を捉えた。 新一の足は、即座にそちらの方へ向かう。 早く− 早くしないと。 殺人犯で逮捕するのだけは、ごめんだ− 自分の彼女の危機を知るはずもない彼は、そう思っていた−それは、ライバルである彼への敬意から来る 感情だったのかもしれない。 △▲△▲△▲ じりじりと後ろへ追いやられる蘭と青子に、紅いシルクハットの男は不気味な笑みを漏らした。 「−そこから落ちる気か?」 そう言った男の指が示しているのは、柵を越えた、向こう。 即ち、空− 宙の上。 その先を見つめると、いやでも想像してしまう−自分たちが落ちていくところ、を。蘭と青子はぶるっと 身を縮ませて、お互いの手を固く握りしめた。 最大のピンチ、だ。 (新一・・・!) (快斗・・・!) 彼女たちはお互いの想う相手を思い浮かべて、必死に奮起する。 「どうする・・・?」 紅い男に捕まるか、それとも− 究極の選択を迫られた彼女たちに飛び込んできたのはー はあはあ、と呼吸を乱した、白き、怪盗。 「テメー・・・」 キッドは怒りをあらわにしながら、注意深く状況を確認する。 彼女たちに、より近いのは、紅いシルクハットの男−。 キッドが動く隙を与えずに、彼はぐっと彼女たちに駆け寄って二人を捕らえる。 「どちらがお前の愛しい彼女だ?」 そう言って薄気味悪い笑みを浮かべた男に、キッドは歯噛みする。 「−お前、狂ってるぜ。」 「言われなくても分かっている。」 そう言って大きく笑いをこぼした男の姿に、キッドはぎゅっと拳を握り締めた。 −どうする。 どうするべきだ− 考えがまとまらない。不安そうに、コチラをすがるように見つめてくる青子。 −どうしたらいい− 「お前ら、一人天才を忘れてるぜ。」 後ろから掛けられた、声。 それが誰なのかを認識する暇もなく、紅いシルクハットの男に向かって投げつけられた鉄の玉。 見事顔に命中したそれに、紅いシルクハットが舞う。男は、 空へと落ちていく− 最後の力で青子の手首を捉えて。 「−青子っ!!」 キッドが動いた。 二人を追うように空へと飛び出す。 「青子ちゃん!」 蘭が青ざめた顔で下を見つめる。 それとは対照的に笑みを浮かべたまま、名探偵は蘭の近くへ歩み寄る。 柵越しに下を覗くと、 キッドのハンググライダーが舞って− 彼が青子を掴んでふわり、と地面に落ちたのが目に入った。 ほうっと息をついて、新一は横にいる蘭の姿を見つめる。呆然と青ざめたままの彼女の肩を抱いてやると、蘭は 急に泣き出した。 「お、おい。なんで泣く・・・」 「だ、だって。色んなことがいっぺんに起きたから・・・。」 そう言って泣き続ける彼女を落ち着かせるように、新一は彼女を胸に抱きしめた。 「ったく・・・。」 照れ隠しにそう言いながら、彼は蘭が落ち着くまでずっと腕を放さなかった。 震えてる彼女の体に、キッドはどうすることも出来ずにいる。 (−ばれちまった・・・か。) そう−それは間違いない。 あのとき彼女ははっきりと自分の名を呼んだのだから。 「・・・キッド。」 不意に名前を呼ばれて、キッドは顔を上げる。 「・・・はい。」 「−快斗。」 「・・・」 答えられない。 ここまできて情けないと思うが− でも。 「・・・どうして−っ」 ふわり、と髪をなびかせてこちらを見つめてきた彼女の瞳には、涙。 「・・・っ。」 自分が、見たくなかったもの− それが、今目の前にある。 苦しさから逃れるように、キッドはクルリ、と踵を返した。 無言のまま。 何も残さずに。 |
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