クリスマスの奇跡・3
By nokko様


警視庁の屋上。
白い怪盗−耳にイヤホンを付けながら、鳩を操っている−がそこに居座っていた。
『・・・ですから、彼の狙いはキッドだと言ってるでしょう!』
イヤホンから、苛ついた名探偵の声が聞こえてくる。
−馬鹿な奴・・・。
だから、どうだというのだ。
一般市民ではない(だろう)キッドを守る必要性は、警察にはない。それよりも、奴の正体を−
心がはやる。
いや、”はやる”というより寧ろ腹が立つ−。
『工藤君、だからといって我々には何も出来ないんだ。実際その男が何かしでかしたわけではないんだから。』
『ですが、人権を守るのが警察の仕事でしょう!犯罪者に人権はない、ということですか?』
名探偵の食い下がりようにキッドは軽く苦笑をこぼす。
−勘違いしてもらっちゃ困る。
・・・守られたいんじゃなくて、俺は責めに出たいんだよ。
『奴の望みは、キッドだ。それを知ったら、キッドがどう出るかくらい分かるでしょう!?』
−何?
『キッドはきっと自分から責めに出る−。それによって犯罪行為が起きないとも限らない。警察はそれを黙って
 みてるというんですか!』
−・・・
キッドは目を見開いた。
・・・名探偵は俺に犯罪を起こして欲しくない、ということか。しかも、あんなほら吹き野郎の為に。
俺の暴走を止めたいってわけね・・・。
キッドは唇に笑みを浮かべて、すっと立ち上がった。
−心配しなくても、そんなことしねえって。
名探偵に、心の中でそう宣言して−
彼は、再び空へと飛び出した。


新一は再びビジネスホテルへと足を向ける。
警察との折り合いは結局つかなかった。
−・・・すなわち
奴の暴走を止められるのは、俺だけってことか・・・。
非常に難しい課題に、新一は唇を歪める。
−大体、俺自身暴走する性質なのに、奴を止められるかどうか−
難問、だった。
暴走、という言葉で、新一は何かひらめく。
大胆不敵に行動する奴のことだ。
そうならば、次は−
はっと顔を上げると、新一は逆の方向へと足を向けた。
駆ける彼に、風が通り過ぎてゆく。


△▲△▲△▲


一方、名探偵と怪盗の愛しき彼女たちは、というと−

ひたすらトボトボと歩いていた蘭の瞳に、見知った顔が映って彼女は顔を上げた。
「青子ちゃん!?」
何やら急いでいるらしい青子を、蘭は呼び止める。青子はその声にクルリ、と後ろを振り返って、
「蘭ちゃん!」
青子はぴたっと足を止めると、息を整えつつ蘭に近づいていった。
「あれ?快斗君は?」
いつもなら側に必ずいる彼女の幼馴染がいない。
尋ねられた青子はぷうっと頬を膨らませて、
「−知らないっ!」
そう言って唇をすぼめた。
−どうやら、ここにも身勝手な男の子に振り回されている女の子が一人。
蘭はクスクス、と笑いをこぼしてしまう。そんな彼女を不思議そうに見つめて、青子は彼女の側にも
幼馴染がいないことに気がつく。
「あれ?新一君は?」
「・・・青子ちゃんと同じく、『知らないっ!』かな?」
そう言って柔らかく微笑んだ彼女に、青子は瞳をぱちぱちと瞬かせた。そんな青子ににこっと笑って、
「青子ちゃん、もし時間があるならお茶でもどう?」
蘭がそう誘うと、彼女は嬉しそうに頷く。
「あ、でも快斗のところに行きたいんだけど・・・。」
「付き合うよ!」
蘭の一声で彼女たちは一緒に行動することとなる。
彼女たちの行く先で、何が起きるかも知らずに−


名探偵のおかげで頭を冷やされたキッドは、再び敵の城に向かっていった。
さすがに、奴がまだいるとは思えないが、何かが残っている可能性はある−
そう考えた末の行動だった。
重厚な扉は、相も変わらず冷たい雰囲気をはらんでいる。そっとそれに手をかけて、キッドは中へ侵入した。
紅いカーペットにくらくらと眩暈がするのを抑えて、彼は辺りを見回した。この間の暴走で痛い目にあって、
どうやら少々慎重になっているらしい。
扉を開けると、大きく開かれたフロアがあって奥に階段がある。
一階には部屋が3部屋あるようだった。とりあえず奥の部屋から一つ一つ確かめていくことにしたキッドは、
奥へと足を進める。奥の部屋は、ただの物置のようだった。がたがたと音を立てながら、キッドはガラクタを
一つ一つチェックする。
ふと、キッドの手が止まる。
写真−
恐らく、本人の写真であろう。
そこには、にこやかに笑った奴の顔とそれからもう一人−
・・・これはっ!
キッドの瞳がそこに集中した。思考が彼の頭の中を駆け巡る。
−そうなのか!?
パズルがはまった。
キッドの脳裏に導き出された、その答えは−

「・・・学習能力がないようだな。」
「−!!」
完璧思考の波に埋もれていた彼に、男の気配が感じ取れなかったとしても仕方がないだろう−
紅いシルクハットを持った男が、微笑みながら後ろに立っていた。
彼を睨みつつも、キッドは軽く微笑みを表す。
「こんにちは。」
声は、震えていない。
大丈夫だ−
ポーカーフェイスは、今も働いている−
キッドは流れる冷や汗を隠して男と対峙した。
「何か聞きたいことはあるか?」
そう言ってにやっと笑った彼に、キッドは頭を振る。そうして、ゆっくりと唇を開いた。
「分かってるのは−
 お前には負けられないってことだ。」
そう冷たい口調で言ったキッドに、男は手に持っていた紅いシルクハットを被ってモノクルの奥の瞳を輝かせる。
「それは、こちらも同じこと。」
男は、素早い動作でキッドに接近した。


「あ、こっちのが近道なの。」
快斗の家へ向かう途中にある裏道を青子は指差す。燦燦と輝く表通りとは打って変わった闇を放つ其処に、
蘭は少し身を固くした。
「大丈夫vよく通る道だから。」
不安そうな蘭を励ますようにそう言って、青子は先にその通りに入っていく。
「あ、待って、青子ちゃん!」
蘭は焦って彼女の後を追った。

日は差さないが、二人でいれば怖いほどではない。蘭はほっとして足を進ませた。青子も微笑みながら
「早く早く!」と先を促す。
−そのとき。
どばん!!
と大きな音が彼女たちの鼓膜を震わす。
「−え・・・?!」
白い、衣装−
紅い、シルクハット
交差する色。
「「−キッド・・・!?」」
少女二人の重なった言葉を耳にして、白い怪盗は目を見開いた。
「−あお・・・こ」


絡み合った糸を紐解く、名探偵の到着は、もうすぐ−。





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