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黒羽快斗。 どこにでもいる、ただの高校生。 おちゃらけたそのキャラがみんなの人気者。 ・・・でも。 クリスマスくらいは、青子と一緒に居てくれてもいいんじゃない? むう、と顔をしかめて、青子は女の子に囲まれてにやにや笑っている幼馴染を見つめた。彼はその視線を 感じたのか、体の向きをクルリ、と彼女の方へ向けてくる。 「ん?なんだよ、青子?」 「なんでもないっ。」 ふんっとそう言って体を背けた彼女に、快斗は軽く苦笑する。 「ま〜だ怒ってんのかな、青子ちゃんは・・・。」 「怒ってないよっ!」 (めいっぱい怒ってんじゃねえか・・・。) 快斗は立てた肘に頭を預けて、一瞬困った素振りを現した。自分だって、一緒に居たいのだ。 でも、今年ばかりは− そういう訳にはいかない。 自分がたまたま握ったイカレサンタの情報と引き換えにするという暴挙をしてでも解決しなければならない、 コト。 こればかりは、どうしても自分が片をつけねばならない。 ちらっと幼馴染に目をやる。 −・・・やっぱり、怒ってるよな。 理由はいえなかった。だから、嘘をついた−ダチと遊びに行く、などという、とんでもない嘘を。 『どうして青子も連れてってくれないの!?』 そう言った彼女の言葉が耳について離れない。 こっちだって今年こそは二人で過ごしたい、と思っていたのだから。 終業式が終わり、快斗は誰よりも早く学校を飛び出す。ぴゅううっと吹く風を一身に受けて、快斗は身を縮めた。 見知った裏通りを通って、古ぼけたビルの屋上へ向かう。 ばっと白い衣装に姿を変えて、瞳のきらめきも変えて− 怪盗は身軽に降下していった。 快斗が先に帰ったあと、青子は一人トボトボと帰路についていた。何故だか苛つく心を抑えようとするが、 表情の豊かな青子の顔はしかめっつらそのもの。 だが、ぷう、と膨らませたその表情も可愛いといえば、可愛い。 プリントやら通知表やらで重くなった鞄を引きずるように持ちながら、青子は終始顔を俯かせていた。 ぴた。 不意に、そんな暗い面持ちの青子の足が止まる。 (青子、なんにも言ってない!) さあっと青くなる顔を覆い隠して、青子は駆け出す。 行き先は− 快斗のところ。 旅行とやらに行ってしまう前にどうしても会わねば。 「メリークリスマス」 くらいは、せめて言うべきだ。 その気持ちの奥深くにあるのが、 −淡い恋、だということに青子はいつ気づくのだろうか。 一方、キッドはそんなことを知りはずもなく、情報を求めて空を舞っていた。 彼が巻き込まれた事件。 その全体像を見るには、もう一つの要素が必要となってくる。 それは警察へ送られた一つの声明文− 『怪盗キッドの親!?』 大きく書かれた見出し。 それに驚いたのは、紛れもなく怪盗キッド本人−すなわち、黒羽快斗である。映し出された絵は、確かに 似通った背格好−だが、明らかに違う部分は、シルクハットの色。そこだけが、闇に溶け込みそうな紅。 「・・・出された声明によると、彼はキッドの父親・・・!?なんだと!!」 呟きは、闇に溶け込まれていく。叫びさえも誰にも届かないその場所で、快斗は−キッドは、 大きく歯軋りをした。 ありえない。ありえるはずがない。彼は、死んでしまったのだから。 亡霊とでもいうのか− かっとする心を抑えて、キッドはモノクルの下の瞳を輝かせた。 −親父を侮辱することだけは許せない。 キッドの心が闇色に染まっていく。 そして、それに火がつく。 「・・・ふざけるな・・・。」 燃え上がった怒りに身を任せて、彼は渦中の場へ飛び込んでいく。 それが罠だと、気づけない彼ではなかったはずなのに。 裏路地を抜けると、見えてくる重厚な扉。 ここが、奴の本拠地だという情報を得たキッドは、ほかの情報を全く得ずにここまでやってきた。裏路地に あるので表からは見えないが、一見するとどこかの城のような建て構えである。 −鍵はかかっていない。 キッドは慎重に扉を開けて、ゆっくりと敵の城へ入る。 そこにあったのは、紅いカーペット。そう−新聞の写真のような、紅。 奴の目的は分かっていない。ただ、予告上によれば、奴の目的は『白い息子』だという。それがなんの意味 なのか警察は分かってないらしい。 (・・・まじ馬鹿なのか、もしくは情報を漏らしたくなかったのか−) 警察の真意は分からない。しかし、それが事実だとすると、それは紛れもなく自分のことだ。 −俺に会いたいってことか。それとも・・・。 深くなる思考を止めるために軽く首を振って、キッドは先へ進む。 −考えても仕方のないことだ。 分からないのなら、前に進むしかない。 階段をさっと駆け抜けて、奥にある部屋へと向かう。こういうときは相場が決まっているものだ。 −大将ってのは奥にいるもんだろ? RPGのゲームいわく、そう信じ込んでいた彼が後ろを取られたことは− 彼の不覚であったといえよう。 「−なっ。」 「残念だったな。」 聞こえた声は− キッド−いや、快斗がよく知った、声。 「・・・おや・・じ?」 「−大きくなったな・・・と言いたい所だが。」 キッドは、自分が感じる痛みに瞳を細めた。 「・・・まだまだ、だな。」 すっと抜かれたそれが、紅く鈍い光を放つ。キッドは痛みで霞む目を開けて、その人物の顔を認識しようと した−が、その姿はもうない。 「・・・んなの、ありかよ・・・っ!」 ずきずきとうねる血管を鎮めながら、キッドは彼の逃げていった方向へ目を向けた。 ・・・親父なはずがない−。 祈る心と、怪しむ心がキッドの中で交差していることを、彼は知っていただろうか− 否。 疑っていることすら、彼は気がついていなかった。 新一から得た情報を元に、快斗は『紅いシルクハットの男』を探し続ける。その動機が、その心の元が、彼の 猜疑心から発生したものであると彼は分かっていない。 彼に必要なものは、信じること− すなわち、愛。 ・・・彼にとっての愛とは、幼馴染そのもの。 怪盗のピンチを救う救世主が、何よりも愛情であることに気づける時は、近い。 |
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