イカレサンタが逮捕されて、一週間−
世紀の大怪盗もクリスマスくらいは休みたいのか、予告はなかった。警察関係者もそれにはほっと息を
撫で下ろしていた。だが、彼らに休日はない。日々発生する事件は休むことを知らないのだから。
それは、名探偵工藤新一にとっても同じことで−
彼にとって忙しいクリスマスが始まりつつあった。


クリスマスの奇跡・1
By nokko様


『−、もういい!知らないっ!私誰か違う人と一日過ごすから!』
「おい待てって・・・蘭!?」
がちゃん!と切れた携帯に、新一は思いっきり息を吐く。
(しょうがねえじゃねえか・・・)
頭を掻きながら、クルリ、と部屋を見回す。簡易ベッドが一つ。小さな机の上にコンピュータが一つ。
なにやら、ビジネスホテルのような趣である。
コンピュータには、何やら小難しい英文が並べられていた。
何故彼がこんなところにいるのか−
話は、サンタ事件の前に戻る。


真夜中。
ぱちっと目が開く。
人の、気配−
−誰だ?
体を起こして、足音を立てないよう十分注意しながら、階下へと向かう。
体が緊張している−
そろり、と居間へ入ると−
見えたのは、白い残像。
「−!?キ−」
ぐっと首を絞められ、その家の主−工藤新一は息を殺す。
「−静かに。」
「は・・・なせっ!」
そう言うと、真夜中の侵入者はスルリ、と手を緩めた。コホコホと咳をして、新一は首を締め付けてきた相手−
白き怪盗を睨みつける。
「手荒なマネをして、すいません。」
怪盗は面白そうな表情でそう言うと、身軽に名探偵から一歩分の距離を取った。
「−んなんだよ。快斗・・・。」
「わりィ。ちょっとしくじっちまって。」
軽い口調と共に、キッド−快斗はシルクハットを取ってソファに腰掛ける。
「−?お前、今日予告出してたっけ?」
「いや・・・。ちょっと、別件。」
なんでもない−というように肩を竦めた快斗を見つめて、新一は不満そうな表情を浮かべた。
「お前なあ・・・。いきなりやってきて説明もなしか?」
「だからわりィって言ってんじゃねえか・・・。」
バツが悪そうにそう言った彼をじっと見つめると、新一は大きく溜息をついて居間から出て行く。それを見て、
快斗はぎりっと歯を食いしばった。先ほどとの軽い調子とは打って変わって、その様子は痛々しい。
「腹出せ。快斗。」
その名探偵の言葉に、快斗はぎょっと目を丸める。
「−・・・やだな、名探偵君。そういう趣味?」
「−このままほっぽり出しても俺としては全く問題ないんだけど?」
嫌味を多少−いや、多々含んだその言葉に、快斗は小さく舌打ちしつつ、ばっと腹を出した。
流れ出る、血。
深い傷ではないと分かるが、新一は金臭い匂いに軽く顔をしかめた。
「自分で出来るだろ?」
そう言って救急箱を渡すと、新一は反対側のソファに身を沈める。手際よく処置する快斗の姿を横目で
見ながら、テレビを付けると、緊急特集−この時間にしては、珍しい−が目に飛び込んできて、新一は
すっと瞳を細めた。
「・・・これ。」
「んあ?」
「お前が関わってるのって、この事件・・・か?」
快斗はチラッとテレビに目をやって、イエスともノーとも取れる曖昧な動作をすると、「関係ない。」それだけ
言って処置を続ける。新一はそんな快斗にお手上げ、とばかりに肩を竦めた。
「じゃ、俺寝るから。」
さらっとそう言って2階へ向かった名探偵をチラッと見つめて、快斗は大きく息を吐く。
「コーヒーくらい・・・。」
新一がもしそれを聞いていたら、恐怖の鉄拳が降りかかっていたであろう−。


あのとき、放っておけばよかったのに−
何故か気になって調べを進めてしまった自分。おかげで、クリスマスには帰宅できそうにないし、蘭はそれで
怒るし、最悪である。
「はあ・・・。」
新一は膨大に送られてくるデータを一つ一つチェックしながら、ある意味これは犯罪行為なのだろうか−と
自問する。なんといっても、自分がしていることは怪盗の手助けだ。
ある意味で、邪魔でもあるだろうが−
奴に、この件でいかなる『犯罪』をさせないために、自分はここにいるのだから。
微妙な立場におかれた名探偵と怪盗に、朝日は昇るのか−
・・・微妙だ。


「まあた新一君、行方不明なんだって?」
学校へついた途端の園子の言葉に、蘭は唇を歪めた。
「知らない。」
そう言ってぷいっとそっぽを向いた蘭の仕草に、園子ははは〜んと瞳を細める。
「喧嘩、した?」
「・・・」
黙り込んだ蘭に園子はクス、と笑いを漏らした。
「ねえ、蘭はどうしたい?」
「・・・え?」
「一緒に居たいんでしょ?せめてクリスマスの時くらい。」
「・・・」
再び黙り込んだ彼女に、園子は大きく溜息をつく。
(自分の気持ち押し殺すことだけが優しさじゃないんだよ・・・)
それを言っても何にもならないと分かっているけれど。
自分で掴まねば意味のないものだと分かっているけれど。
この、優しすぎる彼女に言える言葉は一つ。自分しか、彼女の背中を押してやることは出来ないのだから。
「蘭。女は多少わがままな方が可愛いのよ?」
「え?」
きょとん、とした彼女の背中を押して、園子は豪快に笑う。
「今日はもう終業式だし、出なくていいって!とっとと新一君のところ行って来なさい!」
「で、でも・・・」
「でももヘチマもない!さあ行った行った!」
ぐいぐいと押される園子に蘭は抵抗出来ず、そのまま教室の外へと押し出されてしまった。呆然と立ちすくむ
彼女ににこっと微笑んで−園子は、がらっと扉を閉めてしまう。
「・・・え」
それでもまだ蘭は一体どうすればいいのか、掴めないままだったのだが。


−行ける訳ないじゃない。
ちらっと教室の扉を見つめて、蘭は思う。いつも事件が自分と新一の間の扉を閉めてしまう。彼の邪魔は
したくない・・・という自分の気持ちが災いして、彼との間に少々のずれが生じるのはよくあることだった。
これが自分たちのスタンスだ、と割り切れてしまえばいいんだと思う。実際、新一は自分のことをいつも
気にかけてくれている。クリスマスだ、なんだ、と行事にこだわることもないとも思う。
−・・・でもね。
そう、今年は、新一が戻って、恋人同士になってから初めてのクリスマス。
−やっぱり一緒に居たい。
そう思ってしまう自分はわがままなのだろうか。他の女の子はどうなのだろう。是非とも統計調査をして
もらいたいものだ。一体どれくらいの女の子が、クリスマスという特別な夜を特別な人と過ごしたいと
思っているのか−。
−一緒に居たいよ、新一−
ぽろぽろと流れ落ちる涙をこらえながら、蘭は一人トボトボと歩き続けた。


英文をたどっても何の情報も得られず、新一は大きく溜息をつく。
(だから、こんな役回りはごめんだっての・・・快斗)
足で動いて、探るのが自分のスタンスだと分かっている。だが、快斗−キッドの方がそれについては
勝っている、というのも事実。
(ヒラヒラしやがって)
・・・ヒラヒラ、とはハンググライダーのことだと思われる。毒づきながら新一はそっと窓の向こうを見つめた。
明日は、クリスマス・イブ−
(・・・明日までには帰れそうもない・・・かな。)
蘭のことを想わないではいられない。彼女がいる場所が、自分の帰る場所だ。だが−
自分の中の譲れない部分は、
・・・やっぱり、譲れない。
ぐっと握り締めた拳には、決意。
必ず、帰る−
イブの夜には必ず−





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