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「War is over, if you want it...」 「あ!サンタさんだ!」 大きな声でそう叫ぶと、赤い傘をふりまわしながら少女はサンタに歩み寄った。サンタはにこっと笑いながら、 彼女に顔を近づけてその『歌』を歌い続ける。 クリスマスの祝福の歌を− |
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「ジョン・レノン?」 授業も終わり、早々に教室を出て行こうとした哀は、歩美の口から出た以外な言葉に足を止めて 後ろを振り返った。 「そう!哀ちゃんなら知ってるかなって思ったの!」 「ええ、知ってるわよ。」 「じゃあ、クリスマスの歌、知ってる!?」 きらきらと瞳を輝かせて問いかけてくる歩美と視線が合って、哀は内心で苦笑してしまう。 「”Happy Christmas”ね。」 さらっとそう答えた彼女に、歩美は満面の笑みをこぼすと、「じゃあ、哀ちゃんも一緒に行こう!」と言って 哀の手を引っ張る。その肩には既に鞄が二つ。 「ちょ、ちょっと?!」 有無を言わせぬ力強さで引っ張る彼女に半ばさらわれるようにして、哀は教室を後にした。 色とりどりに花を咲かせるイルミネーション。 どこもかしこもクリスマス一色のこの時期。 その中で人一倍怪しげな雰囲気を漂わすショップの店先。 そこで、似通った顔の二人が何やらコソコソと会話をしていた。一人はその店の店員らしく、「マジック専門店」と 大きなレゴの入ったエプロンを身に着けている。 よく見れば、そのうちの一人がこの辺りでは有名な、工藤新一であることが分かっただろう。そう、そして その彼に似ている相手といえば−黒羽快斗、その人以外なはずがない。エプロン姿の彼は、どこか幼びて 見えた。 「サンタがセクハラぁ?」 「あ〜なんか、今やべえ奴がいるみたいだぜ。」 ほうきを片手にさっさっと掃除をしている快斗をじっと見つめて、新一は大きく息を吐く。 「快斗・・・。その情報の出所はどこだよ?」 「・・・さあね〜。ま、気をつけなよ。蘭ちゃんにもしものことがあったらソイツ殺しかねないっしょ、新一君♪」 「・・・」 ぎりっと拳を握って快斗をにらみつけると、新一は無言で踵を返した。 「ああっ!ちょっと待てって!大丈夫だよ、子ども専門らしいから。」 ぐいっと制服の襟元を掴んで引き止めた彼をジト目で返すと、新一はポケットから紙切れを出して、 快斗に手渡す。 「言っとくけど、成功なんてさせないからな。」 「待ってるよ、名探偵。」 にやっと笑ってそう言った快斗に、ふん、と鼻を鳴らすと、新一はくるり、と後ろを振り返った。 「一応お友達には忠告しておいたほうがいいぜ、新一。」 真剣味を帯びた忠告を、背中に受けながら。 住宅街のはずれにある、寂びれた教会。 哀と歩美は、そこの前で足を止めた。 「あれれ・・・。サンタさん、ここにいるって言ったんだけど・・・。」 「・・・」 歩美はキョロキョロと辺りを見回して、サンタの姿を探しているようだ。哀は苦笑しながら、一応それに 付き合ってやる。 「全く・・・。しょうがないわね。」 どうやら、『Happy Christmas』の歌を教えてくれたサンタがここにいるらしく、歩美としては特別に哀だけに 教えてあげるつもりで、ここに彼女を連れてきてくれたらしい。 文句を言いながらも、哀は内心嬉しかった。 戻らないことを決めたのは自分。 居場所を決めたのも自分。 受け入れてくれることに、ひどく臆病になっている自分を、歩美も含めて少年探偵団のみんなは純粋に 受け止めてくれていた。 それが、子どもゆえのことであったとしてもかまわない。 暖かさを感じられる場所だったから。 そんなことを思いながら、ぼうっと辺りを見回していた哀に飛び込んできたのは真っ赤な衣装を身に着けた、 サンタの姿。 「あれ、お嬢ちゃん、来てくれたんだね。」 にこっと笑ったその顔は 実に、気持ちの悪いもので− ぱたぱたと嬉しそうに駆け寄っていく歩美を視界の端に捕らえながら、哀は無意識に冷や汗を掻いていた。 (・・・この人・・・!?) 「あれ、今日は友達も一緒なんだね。・・・君、名前はなんていうのかな?」 近づいてくるサンタを睨みつけて、哀はそっぽを向く。 「恥ずかしがりやさんなのかな・・・?」 手を近づけて、哀の頬を撫でてくるサンタに、彼女はぶるっと身を震わせた。しかし、歩美の手前はねつける わけにはいかない。 じっと我慢して耐えていると、歩美が哀の方を不安げに覗いているのが目に入った。 (馬鹿ね・・・。) にこっとサンタに向かって笑うと、哀は歩美の手を取って駆け出す。 「−あ−、待ちなさい!」 どこまでもねばねばと追ってきそうな、粘着質なサンタの声から逃れるように、哀と歩美は猛スピードで走った。 『サンタクロース?』 「ああ。なんか知らないか?」 『ちょっと待って。園子に聞いてみるから。』 携帯の奥から何やら声が聞こえてくる。新一はマフラーを巻きなおして、彼女が出てくるのを待った。 『新一〜?』 新一の背筋が凍る。 「うげっ。なに気持ちわりい声出してんだよ、園子!」 『・・・うるさいわね。ギャグよ。』 (ギャグね・・・) ごほん、と一つ大きく咳をして、新一は気を引き締めなおした。 「お前、サンタの話知ってるか?」 『え?−ああ、あのイカレサンタね。』 「知ってるのか!?」 携帯に顔を近づけて叫んだ新一に、園子がうめき声を漏らす。 『ひいい、イタイイタイ、耳!ちょっとは落ち着きなさいよ!』 大げさにそう言った彼女の言葉を無視して、「そのサンタがいそうな場所、早く!」再び叫んだ新一に、 園子は大きく溜息をつくと、ゆっくり話し始めた。 『えっとね・・・。』 新一は歩みを速めた。 理由はない。 ただの勘だ。 嫌な予感がする− そもそも、この話を聞いたときから。 警視庁で聞いた指名手配中の、暴行犯。 快斗と園子の話に出てきた、イカレサンタ。 合致する。 ぎりっと歯を噛むと、新一は猛スピードで駆け出す。 ハアっと息をついて、哀と歩美は足を止めた。 「ここ、ど・・・」 「シッ」 哀が歩美の口を手でふさぐ。息を殺して、周りの様子を確かめる。 −誰もいない。 ほっと息をついて、哀は手を離した。歩美はそんな哀を見て、不安そうにおびえている。 「哀ちゃん、あの人・・・サンタさんじゃないの?」 瞳を濡らしてそう問いかけた歩美に、哀はふっと目を閉じると、軽く微笑んだ。 「あれは、本物のサンタじゃないのよ。」 「−え・・・。じゃあ、本物のサンタさんがいるんだね!?」 ”泣いていたカラスがもう笑っている”ではないが、一瞬でぱっと瞳の輝きを取り戻した歩美にコクン、と頷いて、 「きっと本物のサンタが助けに来てくれるから。」 そう言うと、哀はぎゅっと歩美の手を握ってやる−が、彼女はどこか切なそうな表情をして、弱々しく微笑んだ。 「・・・サンタさんじゃなくて、コナン君が来てくれたらいいのに。」 小さなその呟きに、哀は目を見張る。 「−なんてねっ!」 顔を上げてふわっと微笑んだ歩美を、哀はある意味うらやましく思った。−と同時に、切なさも。 いつか、事実を知ったとき彼女たちはどうするんだろう。 ・・・優しい結末は望めないのかもしれない。 哀は目を閉じると、ゆっくり思考を遮断した。 亭丹小学校近くのゲームセンター。 新一はそこで見知った顔を見つけて、彼らのもとに駆け寄る。 「元太!光彦!」 「「く、工藤さん?」」 新一は話を始める前に息を整えようと、深呼吸した。その様子を冷静に観察して、光彦がいぶかしげに 口を開く。 「どうかしたんですか?」 「灰原・・・さんと歩美・・・ちゃん、知らないか。」 どうにも慣れない呼び方に苦心しながらそう問いかけると、光彦が「ああ、彼女たちならサンタに会いに 住宅街のはずれにある教会にいきましたよ。」と言ってそちらの方向を指差した。 「サンキュ!」 そのまま駆け出していった彼の後ろ姿を、少年探偵団の二人は呆然と眺める。 「・・・なんだありゃ。」 「なんでしょうね・・・。」 二人は顔を見合わせてにやっと笑うと− 名探偵の後を追った。 ごそごそっと音がした。 歩美がびくっと体を震わせて哀を見つめる。哀は冷静に辺りを見回して、ぎりっと歯軋りした。 (近くにいる。) −どうするの?見つかるのは時間の問題。自分はどうでもいい、だけど− 哀はちらっと歩美を見つめる。 −彼女を守るには、どうしたらいい? 自問した結果出た答えは、一つ。 すっと歩美の手を離すと、哀は立ち上がった。 「哀ちゃん・・・?」 「・・・大人しく隠れてて。」 いつもどおりの冷静さ。冷たさをも含んだそれに、歩美は何も言うことが出来ない。 「どこにいるのかな〜?」 あの気持ちの悪い声が聞こえてくる。そのまま出て行こうとする哀を止めようと、腕を伸ばすが− あと一歩のところで、届かない。 「あ・・・!」 叫ぼうとしたその声を封じたのは− 赤い衣装を着た、白いお髭のオジサンだった。 哀はゆっくりと物陰から出て行く。 覚悟は出来てる− なんの? いつも、なんの覚悟をしてきたのだろう。 死ぬこと? ・・・ 違う。 死にたく、ない。 生きたい。 そのための、覚悟が欲しい− 「ここにいるわよ。下衆サンタ。」 「随分と恥ずかしがりやさんなんだね〜。」 にたにたと笑いながら近づいてくる、サンタ。 その髭の下から覗く、本物の無精ひげ。 「とっとと来なさいよ。下衆。」 背筋から流れる汗に、哀は歯を食いしばって耐える。 ゆっくりと近づいてくる手− 哀は目を閉じた。 吐き気がしそうなほど気持ちの悪い、その感触を覚悟して。 −その瞬間。 ボカッ 誰かの歯が折れる音がして、哀は恐る恐る目を開けた。 「え・・・・?!」 目に飛び込んできた光景に、哀は目を丸くする。 サンタが、サンタと戦っている。 赤い衣装と赤い衣装が交差している。 優勢なのは、あの気色悪いサンタじゃないほう。彼は何発かですぐに倒れて気を失った。 あっけにとられてそれを眺めている哀のもとに、どうやら下衆サンタを打ちのめしてくれたらしいサンタが近づく。 「無茶は、よくないですよ。」 そう言った彼の赤いフードの奥から覗いて見えたのは、 ・・・モノクル? 哀はキラキラ光っているそれを、じっと目を凝らして見つめた。 ふ、と優しげな瞳をたたえて、その視線を遮るようにサンタは横を向く。 「すごーいすごーい、サンタさんって強いんだね〜!!」 歩美が拍手をしながら出てきた。 サンタは哀に向かって『内緒だよ』とでも言うように唇に手を添えると− ぱっと消えた。 「あ、あれ!?サンタさん!?哀ちゃん、サンタさんいたよね、今まで・・・。あれれ?」 きょろきょろと周りを見回してサンタの姿を探す歩美の姿を見つめながら、哀はふっと笑った。 (気障な人・・・。) 「灰原!歩美・・・ちゃん。」 遅れてやってきた新一を、哀は呆れ顔で見つめると「・・・お疲れ様。コイツの始末よろしくね。」そう言って 気を失っているサンタを指差した。 「・・・あ?」 「−怪盗さんに感謝しなきゃね。」 そう言ってにやっと笑った彼女を新一は絶句して見つめる。 「・・・おい、それって・・・。」 「−さあ?どういうことかしら?」 肩を竦めただけで何も答えない哀の態度で全てを掴んだ新一は舌打ちした。 (けしかけるだけけしかけやがって・・・) 警察にはお前が対処しろよ、というメッセージを含んだそのやり方に、新一は内心腸が煮えたぎる思いだった。 (・・・きしょう) 「ねえ、あたしサンタさんに会ったんだよ〜!本物のサンタさん!」 どうやら新一の後をつけてきたらしい光彦と元太に向かって、歩美は自慢げにサンタのことを話している。 それを横目で見てはあっと大きく息をつくと、新一は警察に電話をかけた。 「あ・・・もしもし、工藤ですけど。」 『あー工藤君、お手柄だったね!あの暴行容疑のかかっていた容疑者を確保したそうじゃないか!』 「−は?」 『さっき電話してきただろう?あいにくワシはいなかったんだが・・・』 ぷちん。 堪忍袋の緒が切れる。 −もう、ゆるさねえ・・・・。 その瞳に宿った悪意が、これからどんな結末を導くのか− それを語るのは次回に。 一方、いい役ばかりを引き受けた彼は− そのころ、空を優雅に舞っていた。 クリスマスに彩られて、祝福を受ける町を見つめながら。 <了> |
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+++++++++++++++++++++++++++++ このお話は哀と歩美の関係がツボでしたv 怪盗と名探偵の友情は言うまでもないですが。 みんな、それぞれに‘らしく’て凄いなぁと感心してしまいました。 1人勝ちのキッドがカッコ良かったですv 新ちゃん、リベンジを頑張れ!(笑) このお話には続きがあるので、気になる方はこちらからどうぞv nokkoさん、素敵なお話をありがとうございました! +++++++++++++++++++++++++++++ |
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