パーティーをもう1度


快斗の中で吹き荒れる感情の嵐は、時間をかけて徐々に収まっていった。
全ての感情が流れ去った後に残ったのは、今までの激しい嵐が嘘だったかのように不思議なくらい
穏やかな気持ちだけだった。
それはきっと腕の中に閉じ込めた存在のおかげなのだろう。
快斗を支えるように背中に回された腕がとても優しかった。
(青子ってすげーよな。)
快斗は小さな頃から何度も感じた想いを再確認した。
何も聞かずに快斗の全てを受け止めてくれる青子に、いつも癒され救われていた。
こんな夜を一人で過ごさずにすんだ事に心から感謝する。
名残惜しく感じながら、快斗はゆっくりと腕の中の青子を解放した。
いきなり抱き締められた青子は、何が何だか訳が分からなかっただろう。
「ご・・・」
「もう大丈夫ね?」
けれど、快斗の口から謝罪の言葉が出る前に、優しい声にそれは遮られた。
真っ直ぐで透明な視線が快斗に合わせられる。
快斗の表情を確認した青子が、ふわりと春の日差しのような笑顔を浮かべた。
「良かった。」
きっと青子は謝罪の言葉もましてやお礼の言葉も欲していないんだろう。
小さく呟かれた言葉に快斗はそう感じた。
何の見返りも期待しないで他人の為に行動する青子が愛しくて堪らなかった。
青子の笑顔に惹かれるままに、快斗は彼女の柔らかな頬に手を伸ばしそっと顔を寄せた。
快斗の吐息を間近に感じて、青子は思わず目を閉じた。
その時。

カチャカチャ、ガチャリ。
「青子、まだ起きてるのか?帰ったぞ〜。」

鍵を開けてドアが開く音と共に、ほろ酔いの銀三の大きな声が玄関から聞こえた。
「あっ、お父さんだ!」
パチリと目を開けた青子が固まっている快斗に構わずに、父親を迎える為にリビングを出て行った。
(ちょっ、ちょっと待て〜〜〜!!)
青子の後姿を何も出来ずに見送った快斗は、思わずガクリとしゃがみ込んだ。
今、キスしそうだったのだ。
それなのに。
(何もなかったように出て行くなよ〜〜〜〜〜っ!!)
天然というか無邪気というか、青子の態度に思いっきり力が抜けるのを快斗は感じた。
(でも、これで良かったのか・・・?)
そもそも告白も何もしていないのに、いきなりキスはまずいだろう。
警部の登場はちょうど良かったのだと、持ち前の切り替えの早さで快斗はそう思う事にする。
あとちょっとだったのにと悔しがる心の声に気づかない振りをして、快斗は無理矢理いつもの幼なじみの顔に
戻ると、青子の後を追うようにドアへと向かった。


一方、銀三を出迎える為にリビングを出た青子は、出てきたばかりのドアに寄りかかり顔に手を当てていた。
異様なほど頬が熱くなっていた。
(快斗、キスしようとしてた?ま、まさか違うよね?)
青子は否定しようとすればするほど、どんどん顔が火照っていくのを感じた。
未だに頬に残る快斗の手の感触が間近に見た真剣な快斗の顔を思い出させ、じっとしていられないような
羞恥が青子を襲う。
「お〜い、青子?」
いつまでも出てこない青子に、玄関にいる銀三がが不思議そうな声を上げた。
青子は大きく深呼吸をしてドキドキと早い鼓動をどうにか落ち着けると、ようやく玄関に向かった。
「お父さん、お帰りなさい!」
「あぁ、ただいま。」
(顔、まだ赤かったかな?)
いつものように出迎えられたかと青子は心配したが、どこか申し訳なさそうな顔をした銀三はそれに気づかず、
娘に向かって思いっきり頭を下げた。
「青子、すまん!!」
「い、いきなりどうしたの?お父さん。」
「お前の誕生日だという事をすっかり忘れていた。
 キッドの予告があったからとはいえ、本当にすまなかった!」
頭に引っかかっていた謎が解けたのは、キッドのアジトを見つけブルー・バースデーを取り戻した祝いの宴会の
席で、今日が何の日かようやく思い出した銀三は、途中で寄り道をしつつ急いで家に帰ってきたのだ。
「・・・思い出してくれたんだ。」
ポツリと呟いた青子に、銀三の頭が更に深く下げられる。
「すまなかった!今度の非番の時にプレゼントを一緒に買いに行こう。」
「ホント?約束だからね!」
「あぁ、何でも好きな物を買ってやるぞ。」
「そんな事言ってると、凄いモノをねだっちゃうから。」
明るい顔で笑い声を上げる青子に、銀三はホッと胸を撫で下ろした。
「本当にすまなかったな。」
「お父さんったらそんなに謝らないでよ。」
自分の父親にこうも謝られるとどうにも居心地が悪くて、青子は父親がご執心の怪盗に話題をすりかえる。
「ねっ、それよりキッドの方はどうだったの?」
「キッドか?またしても逃がしてしまったんだが、奴のアジトを見つけて宝石は取り戻したぞ。」
「すごいじゃない、お父さん!!」
自分の事のように手を叩いて喜ぶ愛娘の姿に、自然と銀三の顔も緩む。
きっと自分がいつまでも怪盗キッドを追いかけていられるのも、こうして笑顔で迎えてくれる娘がいるからだと
思う。
銀三が目を細めて青子を眺めていると、奥の方から人影が現れた。
「警部、お疲れ様です。」
リビングから出てきたのは娘の幼なじみの少年。
「おぉ、快斗君。来ていたのか。」
「はい、お邪魔しています。」
礼儀正しく挨拶をする快斗にふむふむと頷いてみせてから、銀三はんんっ?という顔をした。
「こんな夜遅くに、どうして快斗君がいるんだ?一体、何をしてたのかねっ!?」
まさかとは思うが娘に何か不埒な行いをと熱くなりかけた銀三を、青子が慌てて止める。
「お父さん、何を勘違いしてるのよ!」
「じゃあ、何なんだ?」
「え、ええっと・・・。」
「パーティーの料理が残っているからって呼ばれたんですよ。」
咄嗟に言い訳がでてこない青子に快斗が助け舟を出した。
「そ、そうなのよ。パーティーの残り物を食べてもらおうと思って、快斗を呼んだの。」
「パーティー?」
話しながらリビングまで移動してきた銀三は、ちらかっている中の様子を見て驚いた。
「青子の誕生パーティーをやってたの。快斗は用事があって来れなかったんだけど、料理が残っちゃったから
 処分してもらおうと思って呼んだのよ。」
「おい、青子!そういえば、オレの分は取っておいてくれたんじゃなかったのか?処分ってなんだよ?!」
「快斗には残り物で充分でしょ?」
「何だと〜!」
じゃれるように言い合う娘とその幼なじみに、銀三はふと笑みを浮かべた。
綺麗に盛り付けられた料理はとても残り物にはみえなくて、娘が意地を張っているのが手に取るように分かって
おかしかった。
きっと幼なじみの彼もそれは分かっているのだろう。
子供のように口喧嘩している2人を見ながら余計な心配だったなと思い、銀三は微笑ましい気持ちのまま
台所に向かった。
「お父さん?」
「ちょっと待ってなさい。」
声をかけた青子に肩越しに答えながら、銀三の姿が台所に消えた。
その場に残された快斗と青子は、口喧嘩をしていたのも忘れて不思議そうに顔を見合わせた。


たいして時間がたたないうちに、銀三が手に大きな皿を持って台所から出てきた。
「えっ、ケーキ?」
自分の前に置かれた皿の上を見て、青子が驚きの声を上げた。
皿の上では8つの苺のショートケーキが綺麗に丸く並べられていて、上には全部でロウソクが
17本立っていた。
まるで切り分けられた後のバースデーケーキといった風情に見える。
「せめてケーキだけでもと思ったんだが、こんな時間に開いているケーキ屋もなくてなぁ。」
気まずそうに銀三が話し出す。
「それで、コンビニに行ったが、ホールのケーキは置いてなくてな。
 しょうがないから、ショートケーキを8つ買ってきたって訳だ。
 これで丸いバースデーケーキになんとか見えないか?」
そういえば、帰ってきた時に銀三はコンビニの袋を幾つか持っていたなと青子は思い出した。
深夜のコンビニにショートケーキがたくさん置いてある事はそうそうない。
売り切れている事もあるだろう。
ショートケーキが残っているコンビニを探し回る銀三の姿が、青子には目に浮かぶようだった。
「あ、青子!?気に入らなかったか?」
突然、目に大きな涙の粒を浮かべた青子に、銀三があたふたとしだした。
青子が涙で声が出ない代わりに、必死に首を振っているのにも気づかない。
「や、やっぱりちゃんと丸いケーキの方が良いよな!
 よし、104にでも聞いてみるか。24時間営業のケーキ屋を教えてくれるかもしれん!」
今にも電話をかけに行きそうな銀三の腕を、青子が掴んで止めた。
「違うの。すごく嬉しいよ。お父さん、ありがとう!」
涙交じりの声でそう言うと、青子は銀三に抱きついて泣き出した。
「あ、青子?泣くのは止めなさい。」
娘の涙に思いっきり動揺している銀三が、いつもキッドに向かってくる熱血警部と同じ人物には思えなくて、
快斗は内心おかしくてしょうがなかった。
けれども、それはとても温かな優しい気持ちにさせてくれて。
こんな警部だから青子のような娘が育つんだろうなと快斗は密かに思った。
それから、快斗はふと思いついたアイディアにいたずらっ子のような表情を浮かべた。
「美味しそうな料理とバースデーケーキがちゃんとあるんだ。
 警部、今から誕生パーティー第2段と洒落込みませんか?」
「パーティーを?」
「えぇ、オレも大遅刻してパーティーには参加できませんでしたから。」
「そうだな。それは良い考えだ!」
快斗と銀三の間で話がどんどん進んでいき、取り残された青子が涙の残る顔を上げて慌てて声を出す。
「ちょっと待ってよ。もうこんな時間なのに?」
「こんな時間?」
快斗がニヤリと笑ってパチンと指を鳴らした。
ポンッ☆
煙幕に包まれた時計の針が逆戻りを始め、瞬くうちに昨日に戻っていく。
「ほら、これで12時前。今日は青子の誕生日だ。」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「まぁったく素直じゃねーな。折角オレ達が祝ってやるって言ってんだから、ありがたく祝われとけよ。
 そうですよね、警部?」
「あぁ、何だったら夜通し騒ぐか?明日は学校を休んでも構わんぞ。」
「もうっ!そんな事を言って、お父さんは明日も仕事があるでしょ?」
「キッドの所為で徹夜には慣れてるからな。ワシなら大丈夫だ。」
銀三の言葉に快斗は内心苦笑を浮かべずにはいられなかったが、そんな素振りを外には出さず
青子に向かってウィンクしてみせた。
「マジック・ショーを見せてやるって約束しただろ?」
「おっ、快斗君のマジックはワシも見てみたいぞ。いつも青子に自慢されてるからな。」
「・・・そうだね。青子も快斗のマジックが見たい。」
しょうがないという振りをしつつ、青子はとても嬉しそうな笑顔になった。
「じゃあ、決まりだな!」
そう言うと、快斗は再び指を鳴らした。
その途端、部屋の明かりが消えて、青子の前のケーキのロウソクに火が灯った。
「青子、まずはロウソクの火を消せよ。」
「うんっ!!」
快斗の言葉を受けて大好きな人達が目の前にいるのを幸せに感じながら、青子は大きく息を吸い込んだ。


さぁ、君がロウソクの火を消したら、それがパーティーの始まり。
かけがえのない君がこの世に生まれた奇跡に限りない感謝を込めて、
今宵最高のショーをお見せ致しましょう。
Ladies and Gentlemen!!It’s show time!!


<了>


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まじっく快斗の中でブルー・バースデー編はお気に入りの1つです。
あんなプレゼントを貰えるなんて、青子ちゃんが羨ましいですよ、マジで(笑)
でも、この話で1つだけ気になるところが・・・。
どうして警部が青子ちゃんの誕生日だって思い出さなかったんだ〜〜〜!!
愛娘の誕生日を忘れてちゃいかんだろう、という事で勝手に続きを捏造(笑)
後は大げさに言ってしまうと、快斗の救済も目指してたり。
あんな事実が分かった夜を1人で過ごすのは悲しすぎるかなと思ったので。
初のまじ快小説はやっぱり難しかったです。



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