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青子と一緒に笑ったり泣いたり、たまには喧嘩もしたりして。 いつも体温を感じられる距離に青子がいる。 そんな毎日がずっと続いていくとバカみたいに信じていた。 そう、青子がアイツと2人で出かけているのを見る、あの瞬間までは |
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「ほら。大丈夫か?」 「うん、ありがとう。」 快斗が差し出した湯気を上げるマグカップを受け取って、青子は少々赤い顔に笑顔を浮かべた。 窓の外では冷たい風が吹いているが、部屋の中には穏やかな日差しが降り注いでいるので 温かく感じる冬の日。 青子は風邪をひいてしまって寝込んでいた。 朝、携帯電話に今日は休むと青子からメールが来た時、快斗は看病に行こうかと聞いたのだが 大丈夫だと返ってきて、渋々と1人で学校へと向かった。 けれど、父親が仕事で不在の為に1人でいる青子がどうにも心配で、午後の授業をサボって 中森家にやって来ていた。 「あ〜、もう授業が終わる時間だね。」 時計を見て時刻を確認した青子は、快斗にジロリと目をやった。 「な、何だよ?」 「もう授業をサボっちゃダメなんだからね!」 ここにやって来た時から散々繰り返された説教に、快斗は肩をすくめた。 「わぁったよ。」 快斗としては分かりきったつまらない授業よりも青子の傍にいる方がよっぽど重要なのだけれど、 真面目な青子は快斗が授業をサボってきた事が気になってしょうがないらしい。 (ったく、ちょっとはカワイイ事を言えねーのかよ?) 風邪で寝込んでいる彼女を心配して何が悪いと、快斗はふてくされて青子からふいと視線を逸らした。 「・・・でもね。」 青子の声のトーンが変わったのに気がついて、快斗は横目でちらっと青子を眺めた。 「青子、快斗が来てくれて嬉しかったよ。1人で寂しかったし。」 照れくさそうにえへっと笑った青子はとても可愛くて。 快斗は惹かれるままに青子の柔らかな頬に手を伸ばして唇を寄せた。 むにっ 唇に感じた青子の柔らかな唇とは違う感触に、快斗は目を開けて眉をしかめた。 「・・・何だよ、これは?」 快斗が自分の口を塞いだ青子の手をどけながらジト目になる。 「だって、風邪が移っちゃうよ?」 恥ずかしそうに視線を逸らしながら言う青子はやっぱりひどく可愛くて、快斗は顔をにやけさせながら 細い肩を抱き寄せた。 「大丈夫だって。キスぐれーじゃ移ったりしねーよ。」 「も、もし移っちゃったらどうするのよ?」 「オレなら平気だって。それに、人に移した方が早く治るんじゃねー?」 「ダメだったら!」 押し切ってキスしようとした快斗は、青子にえいっと顔を押しやられた。 「青子〜?」 不機嫌そうに呼ぶ快斗に、青子は熱のせいだけではなく赤くなった顔を逸らした。 「快斗が風邪ひいたら青子が困るもん。」 壁の方を向いてしまったから唯一見える赤くなった青子の耳を見ながら、快斗はう〜んと考えた。 キスしたい。 けど、青子が自分の事を心配してくれてるのはよく分かるから。 「・・・じゃあ、風邪が治ったら、青子からキス1回な?」 耳元で囁かれてビックリして振り返った青子の視線の先にあった快斗の顔は、随分とタチの悪い笑みを 浮かべていた。 「な、なんでそんな事しなきゃいけないのよ〜?」 「イヤなら今するけど?」 青子は肩を抱く快斗の腕に力が篭ったのに気づいた。 「ちょっ・・ダメだったら!!」 慌てた青子は快斗を押し返そうとしたけれど、快斗に力では到底敵う訳がなく。 「わ、分かったわよ〜。」 息がかかる程近づいた快斗に、とうとう青子は降参の声を上げた。 「じゃ、約束な!」 嬉しそうに笑っている快斗に、青子は拗ねたように抗議した。 「もうっ!強引なんだから!」 「良いだろ?オメーからキスなんてしてくれた事ねーんだし。」 青子からキスの約束をせしめて上機嫌な快斗は、青子をベッドに横たわらせて布団を被せた。 「ほら、少し寝ろよ。警部が帰ってくるまでついててやるから。」 「ん。」 そっと青子の柔らかなくせっ毛を撫でていると、ゆっくりと青子は眠りに落ちていった。 熱で少し息が荒いのが気になるけれど、平和な寝顔を見せる青子に快斗はホッと安堵の息を漏らして。 中森が急いで仕事から帰ってくるまでの間、あどけない彼女の寝顔をずっと飽きずに見つめていた。 「あれ?快斗、どうしたの?」 「おはよ。」 翌日の朝、玄関を出てすぐの所で待っていた快斗を見つけて青子は目を丸くした。 いつもだったらギリギリまで寝ている快斗を青子が迎えに行くのだけれど、青子の具合が気になった 快斗はちょっと早起きして青子を迎えに来たのだった。 青子は待っていた快斗に笑顔を浮かべかけてすぐに表情を固くした。 それに目敏く気づいた快斗は、首を傾げつつ青子に近づいた。 とりあえず、今は最優先事項がある。 「熱、ちゃんと下がったのか?」 さらっと流れる青子の前髪と自分の前髪をかき上げて、小さな頃から何度も繰り返してきた熱の測定法を 試そうとする。 額と額を合わせようとした瞬間、快斗は胸に軽い衝撃を感じて青子から離れた。 「ご、ごめん!」 視線を逸らして気まずそうに謝る青子を見て、ようやく青子に突き放されたのだという事実が 快斗の中へと浸透していく。 筆舌に尽くしがたいショックだった。 頭の中が真っ白になる。 青子に拒否された・・・?誰が? 「ごめんね。でも、青子は大丈夫だから。」 何も言えずに茫然と立ち竦む快斗に、青子が笑顔を浮かべて再度謝った。 けれど、その笑顔のぎこちなさと未だに1度も合っていない視線が、快斗には余計に痛かった。 それ以上、青子も何も言わなくて、居心地の悪い沈黙が流れた。 冷たい冬の風が吹いて、青子が小さく身を震わせた。 このまま突っ立っていたら青子の風邪がぶり返してしまうと思ったけれど、快斗は動けなかった。 その時、沈黙に耐え切れなくなったように時計に目を落とした青子が、ここから動くきっかけを見つけて ホッとしたように呟いた。 「早く学校に行かないと遅刻しちゃう。」 青子が快斗の脇をすり抜けて、家の前の道へと降り立った。 「快斗、行こう?」 いつまでも動かない快斗に、青子が振り返って声をかける。 「置いていっちゃうよ〜?」 「・・・今、行く。」 いつもだったらその細い腕を絡めて引っ張っていくのに。 普段と違う青子の態度に傷つきながら、快斗は青子の後を追ってゆっくりと歩き始めた。 |
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