21.殺す(快斗×青子)
快斗がチョークの粉のついた手を軽く払って振り返った。
「この公式を解いていくとこうなる訳だ。分かったかね、青子君?」
わざとらしく教師ぶって教壇に手をつく快斗にクスクス笑いながら、公式の書かれた黒板と
にらめっこして青子は顔を明るくして頷いた。
「はい、分かりました。快斗先生!」
茶目っ気いっぱいに言う青子に、快斗も笑顔を覗かせた。
「おしっ、じゃあ帰ろうぜ。ったくアホ子のせいで遅くなっちまった。」
「なによ〜、元はと言えば快斗の居眠りが原因でしょ!」
席から立ち上がって黒板へと近づきながら、青子がむぅっと頬を膨らませた。
「ん〜、よく覚えてねーな。」
青子の指摘はもっともだったけれど、快斗はそ知らぬ顔で恍けた。
青子の言うとおり、いつものごとく快斗は今日も授業中に居眠りをしており、慣れているはずの
先生もさすがにぶち切れて、一山いくらで売れるほどの居残りの課題を快斗に出したのだ。
それに付き合って教室に残った青子は、快斗と向かい合わせになるように机をくっつけて
今日出された数学の宿題に手をつけていた。
すぐにサボろうとする快斗をしっかり見張りながら、順調に宿題をこなしていった青子だったが
どうしても解けない公式があり、課題を終えた快斗がそれを教えてくれたという訳だった。
「快斗・・・、今からそんなにボケてたら後々大変だよ?」
黒板を消しながらからかうように言う青子に、今度は快斗が不機嫌な表情になる。
「アホ子に言われたくねーな。」
「やだ、止めてよ〜!」
鬱憤晴らしとばかりに青子の柔らかな髪をかき混ぜようと横から伸びてきた手を、
青子が掴んで止めた。
そして、快斗を振り返った青子は思いがけないほど近くに快斗の顔を見つけて、
思わず息を飲んでからぎこちなく視線を逸らした。
いつも見慣れているはずなのに、不意打ちの快斗のアップは窓から射す夕陽に照らされている
所為なのか、どこか大人びえて見えて・・・カッコ良くて。
ドキドキと早まった鼓動を持て余している青子を見つめながら、快斗は苦笑を浮かべた。
「あんまり煽らねーでくれる?」
「え?」
快斗の言葉の意味が分からなくて首を傾げた青子は、次の瞬間には力強い腕の中に
閉じ込められていた。
「快斗!?」
驚きの声を上げた青子だったが、見上げた先に見つけた熱い視線にそれ以上何も言えなくなる。
ゆっくりと青子に覆いかぶさってくる影に、青子は迷いながらも目を瞑る。
自分の腕の中でキスを待つ青子の様子に笑み崩れながら、甘い唇に触れようとした快斗は、
近づいてくる足音にふと気づいた。
怪盗なんてやっている為か、彼の耳は他の人より数倍性能がいいのだ。
足音を聞いて、やって来るのが生徒ではなく教師であると気がついた。
きっと課題の進み具合を見に来たのであろう。
快斗は急いで青子を引っ張って手近にあった教壇の中に隠れた。
「な、何?」
いきなりの展開に驚きの声を上げる青子の唇に、快斗がそっと人差し指を当てる。
『静かに。』
『何なのよ?』
快斗に合わせて声のトーンを下げた青子だったが、さっぱり意味が分からないという顔を
していた。
『先生が来る。』
『でも・・・』
隠れる必要はないでしょ?と青子が訊ねる前に、快斗は青子の頬を小さくつついた。
『真っ赤になってる。』
『!?』
それで全てを悟った青子は、熱の集まった頬を冷やすように両手を当てた。
自分でも分かるほど熱くなった青子の顔を見たら、2人が何をしようとしていたのか
一目瞭然だろう。
いくら校則が緩い江古田高校といっても、教師にバレるのは面倒な事態を引き起こすに
違いない。
夕陽に照らされた教室では顔色はあまり分からないかもしれないが、嘘のつけない青子が
平常を装うのは難しいだろうとの判断から隠れた快斗だった。
「黒羽、しっかりやってるか?」
教室の後ろのドアを開ける音と共に聞こえた男性教師の声に、青子の細い肩がびくっと跳ねた。
狭い教壇の下、自分の足の間に座り込むような形になっている青子を抱き寄せて、
快斗は安心させるように背中を軽く撫でた。
「ったく、どこ行ったんだ?」
教室の中に快斗の姿がないのを見つけて、大股に歩きながら男性教師が教室の中に
入ってくる。
近づいてくる足音にぎくりとしながら、青子は快斗にしがみついて懸命に息を殺した。
そんな青子の様子を見ながら、不謹慎だと思いつつ快斗は顔がにやけるのを止められなかった。
青子からこんなに密着してくる事なんてそうそうないのだ。
心地良い体温に、ドキドキと早い鼓動、鼻をくすぐるシャンプーの甘い香り。
ぎゅっと快斗の制服を掴む手も、微かに震える身体も愛しさを増すだけだ。
湧き上がった想いのままに、快斗は先程中断された行為を実行する事にする。
(ま、バレてもかまわねーし?青子が相手なんだから。)
まずいと思って隠れた時の気持ちも、後で青子に怒られるだろうなという予想もどこかに
放り投げて、快斗は青子を抱き締める腕に力を込めた。
不思議そうな表情を浮かべて顔を上げた青子の目が真ん丸になる。
それを最後に瞼を閉じた快斗は、ゆっくりと青子に唇を寄せた。

放課後の教室で、秘密のキスを交わそう。


教壇の下に隠れてキス、というのが書きたかっただけなんです。
状況に対して様々なツッコミがあると思いますが(例:そんなに大きな教壇があるのか?など)、
心の中にしまっておいて下さい(笑)
あ、一応解説しておきますが、殺す→息を殺すということで。分かりにくかったですね(苦笑)


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