15.撃ち抜く(快斗+新一)
会話が途切れた瞬間、新一がふと思い出したように口を開いた。
「そーいや、聞いたぜ。前に怪盗キッドが江古田の時計台を盗んだ理由。」
「・・・ったく、青子のヤツ。」
快斗は苦虫を噛み潰したような顔でビールを煽ってから、情報源だろう青子のいる客室に
ちらりと視線を向けた。
工藤家でのお泊まり会とやらに引っ張って来られたのはいいが、はしゃぎ過ぎた青子は
早々にダウンして名探偵の彼女と共に客室に引き上げてしまったのだ。
それが、男2人で侘しく酒を飲んでいる理由。
「外れ。蘭から聞いた。」
新一は快斗の勘違いを静かに訂正した。
ちなみに、その話を聞いた際にすごく素敵な話だよねと目を輝かせていた蘭を見て、
ついムカッとしてしまった事は秘密だ。
彼女に関する事にはどこまでも心が狭い名探偵だったりするのだ。
「蘭ちゃんに話したのは青子だろ?なら、一緒だろーが。」
悪友に知られたくない事を知られてしまった快斗は、少々不機嫌だった。
そんな快斗の期待に応えようとばかりに、新一がからかいの言葉をかける。
「それにしても、青子ちゃんの為に時計台を盗むなんてよくやるよな。
 ホント、青子ちゃんにベタ惚れなのな、お前。」
「・・・違う。」
新一は低く唸るような快斗の声に面白そうに片眉を上げた。
「へ〜、どこが違うんだよ?端から見てるとバレバレだけど?」
「それじゃなくて、青子の為ってトコだ!」
開き直ったように大きな声を上げた快斗は、ふんっというようにソファーにふんぞり返った。
向かいで新一が珍しく驚いた表情を披露していているのを見て、ざまぁみろと思う。
・・・そうでも思わないと、気恥ずかしくてやってられないというのが真実だったりするのだけれど。
「青子ちゃんの為じゃねーって本当かよ?」
新一はとりあえず快斗が彼女にベタ惚れだと素直に認めた事は置いておいて(そんな発言に
なってしまったと気がついてないだけだと名探偵は推理して、後でからかってやろうと
密かに決心している)、まずは意外な快斗の言葉に再確認を取ってしまう。
「あぁ、オレの為だから。・・・あそこは大事な場所なんだよ。」
まだ花を出すマジックしか出来なかった頃に、あの時計台の下で青子に出会った。
お父さんが来ないかもと寂しげな表情を浮かべていた青子に、どうにかして笑って欲しくて
必死にマジックを見せて。
目を真ん丸くしてから零れた満面の笑みに、使い古された表現だけど心を撃ち抜かれたのだ。
ずっと笑っていて欲しいと思える相手に出会えたあの時計台は、快斗にとっても忘れる事なんて
出来ない大切な想い出の場所だ。
誰かにマジックを見せて笑顔にするのが、こんなにも嬉しい事だと初めて教えてもらったのも
含めて。
言うなれば、黒羽快斗の原点の1つだ。
あの時の青子の笑顔を思い出して知らず口元を綻ばせていた快斗は、はっと気がついて
舌打ちしそうになった。
この名探偵の前でぼ〜っとしてしまったら、何を言われるか分からない。
けれど、快斗の心配をよそに辛らつな言葉は飛んでこなかった。
「そうか・・・。良かったな、ちゃんと守れて。」
「あ、あぁ。」
意表を突かれて気の抜けた声を上げた快斗は、再びビールを口に含んだ。
名探偵も案外良い奴じゃんと快斗が思っていると、新一がにやりと笑って特大の爆弾を落とした。
「実はもう1つ聞いてるんだけど。彼女の誕生日に夜景をプレゼントした気障な奴の話。」
「ぶほっ!!」
盛大にビールを吹き出した快斗の頬が、ポーカーフェイスなんて吹っ飛ばして赤くなる。
いつもの涼しい表情なんて欠片もない快斗を見て、楽しそうな新一の笑い声がリビングに
響いたのだった。


どこかに書いたような気もするんですが、快斗が時計台を守ったのって青子ちゃんの為なのも
もちろんですが、快斗自身も大事な場所だと思っていて欲しいな〜と思って。
あと、この事や誕生日プレゼントの件を新一達に知られたら、盛大にからかわれるだろうなと
前々から思っていたので合わせて書いてみました(笑)


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