| 12.後ろから抱き締める(快斗×青子) |
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「おっ、そろそろ時間だな。」 青子の部屋の壁にかかっている時計を見た快斗は、身軽な動作で立ち上がった。 そして、マジシャンらしい長い指を鳴らす。 ポンっ☆ 軽い音と共に上がった煙がすぐに晴れると、そこにいたのは世間を騒がす大怪盗。 「んじゃ、行って来るな。」 「うん、行ってらっしゃい。」 予告時間まで一緒に過ごしていた青子に声をかけると、笑顔を返してくれた。 予告の前につい青子の所に来てしまうのは、この笑顔に力を貰っているからかもしれない。 頭の中に浮かんだ考えに気恥ずかしくなったけれど、快斗はポーカーフェイスの裏に 上手く隠した。 シルクハットを深く被り直すと、ベランダへ通じるガラス戸に手をかける。 開けようとした瞬間、マントをくいっと引っ張られて仰け反りそうになった。 「青子〜?」 その犯人である青子を、訝しげな声を上げた快斗が振り返ろうとする前に、とんと軽い衝撃を 背中に感じた。 同時に自分の身体に回された手が視界に入って、青子が後ろから抱きついてきたのが分かる。 「どーした?」 背中越しに振り返ってみても、快斗の背中に頭を押しつけていて青子の表情は見えない。 「おーい、青子ちゃん?」 繰り返す優しい呼びかけにも、青子は顔を上げられなかった。 今夜のキッドの予告。 宝石を狙われた大富豪はどんな手を使ったのか、東西の高校生名探偵を引っ張り出して 宝石の警護に当たらせていた。 不幸中の幸いと言うか、クラスメイトの名探偵は英国に行っていて、今日の警備には 参加していないのだけれど。 でも、東西の名探偵は度々テレビや新聞を賑わす有名人で、青子も彼らの実力を知っている。 いつものように快斗を送り出そうと思っていたけれど、白い背中が出て行こうとするのを見て 不安が溢れてしまった。 今夜ばかりは抑える事が出来なかった。 快斗がキッドとして犯行を繰り返している理由はよく分かっている。 だから、行かないでとは言えない。 ・・・それでも、快斗を抱き締めている手を放せない。 きっと色んな感情が入り混じったひどい顔をしてると自分でも分かるから、青子は顔を隠して 快斗の背中を抱き締める手に力を込めた。 「青子、どうしたんだよ?」 快斗は訊ねながらも、何となく青子の行動の意味は予想がついていた。 白くなってしまうほど力を込めて快斗の洋服を握っている青子の手を見て愛しさが募る。 青子の心配が少しでもなくなるようにと、快斗はあえて明るい声を出した。 「アホ子、オレを誰だと思ってんだよ?天下の怪盗キッド様だぜ! 探偵なんかに捕まる訳ねーだろ?」 快斗らしい自信たっぷりな言葉と共に、青子を落ち着けるようにぽんぽんと手を軽く叩かれる。 その後、ぎゅっと握られた手からは確かに温もりが伝わってきた。 手袋をしていない、素のままの快斗の手の温かさに青子の心も少しほぐれる。 洋服を握る青子の手の力が緩んだのが分かって、快斗は青子の手を取ってくるっと半回転すると 華奢な身体を抱き締めた。 「だからさ、あんまり心配すんなよ。しおれてる青子なんて、らしくねーぜ?」 「・・・うん。」 ようやく自分を見た青子を、快斗がイタズラっぽい表情を浮かべて覗き込む。 「まぁ、そんなに心配ならおまじないでもしとくか?」 「おまじない?」 「そう。青子がキスしてくれたら百人力なんだけどな〜。」 「バカっ!変なコト言ってないで、さっさと行きなさいよ!もう時間なんでしょ?」 にやっと笑っている快斗の視線の先で、青子がぱっと顔を赤らめた。 「引き止めたヤツの言う台詞か〜?」 「青子、引き止めたりしてないもん!」 快斗はいつもの意地っ張りな言葉が出てきた青子に心の中でホッと息を吐くと、ちょっとだけ 名残惜しげに青子を放した。 どこかから取り出した白い手袋を嵌めると、ポンっと青子の頭に手を置いた。 「じゃあ後でな。あ、眠かったら寝てていいぞ?」 「もうっ、お子様扱いしないでよ〜!」 即座に返って来た青子の抗議に楽しそうな笑い声を上げながら、快斗は今度こそ出て行こうと ガラス戸に手をかけた。 その時、再びマントが引っ張られた。 「まだ何かある・・・っ!?」 振り返りながらの台詞は最後まで言えなかった。 思いっきり見開かれた快斗の眼に映るのは、近すぎてぼやけている青子の顔。 快斗が身動きできないでいると、青子は唇を放してくるりと背を向けた。 「ちゃんとおまじないしたんだから、早く帰って来なきゃダメだからね!」 ちらりと覗く首筋が赤くなっているのが可愛くて、快斗は笑みを浮かべていた。 恥ずかしがり屋の青子が、冗談めかした先程の言葉を実行してくれるとは思わなかった。 自分で言った通りに、何でも出来そうなほどの力が湧いてくる。 (青子の為にもさっさと仕事してこねーとな。) 1度目を瞑って、快斗は全てを仕事モードに切り替えた。 「青子さんの仰せのままに。」 約束を残して、怪盗キッドは青子の部屋から飛び立って行った。 トントンとガラスを叩く音に青子が笑顔を浮かべるのは、それから数時間後の話。 ちょっと弱い青子ちゃん。 快斗を止められないと分かっていても、やっぱり止めたくなる時もあると思うんですよね。 ここは快斗の甲斐性が問われるトコロ(笑) このSSでは快斗達と新一達は面識がないという事で。 宝石を狙われたのは鈴木財閥という裏設定があったりなかったり(笑) |
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