| 08.秘められた関係(快斗×青子) |
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放課後の高校のグラウンドでは部活に励む生徒達の賑やかな声が響いていた。 真剣な中にも笑いも零れて、和やかな雰囲気に包まれている。 しかし、それとは正反対のピンとした緊張感が生徒指導室の中に満ちていた。 「なんでテストを白紙で提出したりしたの?」 青子はここから逃げ出したい気持ちを抑えて、教師の威厳を精一杯保ちながら机を挟んで座る 生徒に訊ねた。 「こうでもしねーと、青子が2人で会ってくれねーからに決まってんだろ。」 青子が担任している生徒、黒羽快斗が憮然として答えると、青子は咎めるような視線で 彼を見つめた。 「私の事は呼び捨てにしないでと前から言ってるでしょ。 それに、そんな事の為にテストをふいにしたの?」 「そんな事なんかじゃねーよっ!!」 ばんっと机を叩いて立ち上がった快斗に、青子の肩が小さく震える。 青子を怯えさせてしまった事に苦い表情を浮かべながら、快斗は再び椅子に座った。 「あの時の事は謝る。だから、オレを避けんなよ。」 「避けてなんか・・・」 「避けてるだろ!」 吐き捨てるように言った快斗に、青子はそれ以上反論はできずに視線を逸らした。 快斗の言った事は真実だったからだ。 あの時、他愛もない話をしていたはずだったのに、いきなり快斗の表情が変わった。 不意に見せた快斗の男としての表情に驚いた時、快斗に強引に引き寄せられて。 熱い唇の感触を思い出して、青子は慌ててソレを振り払った。 それから、敢えてたいした事なんかじゃないといった素振りをする。 教師としての自分を保つにはそうするしかなかった。 「あ、あの時は悪ふざけしただけなんだよね?もう忘れよう?私も忘れ・・・」 「忘れるなんてできねーよ!」 苛立った快斗は立ち上がって、机を回って青子に近づいた。 立って逃げようとした青子の逃げ道を塞いで、壁際に追い込む。 快斗を恐れるような瞳で見上げる青子に、快斗は握った拳を彼女の顔の脇の壁に押しつけた。 「そんな顔すんなよ。」 押し殺した声で呟く快斗の胸に苦い後悔が過ぎる。 あの時から、青子はいつも無邪気に向けてくれた笑顔を快斗に見せなくなった。 6つ年上の幼なじみ。 大学に入ってからなかなか実家にも帰って来なくなった青子が、快斗の学校で教師をやると 知って快斗は喜んでいた。 また昔のように笑い合ってじゃれあって、楽しい毎日が送れると思っていた。 けれど、しばらく会っていなかった幼なじみは、綺麗な大人の女性に変わっていた。 男子生徒の間で青子の事を噂される度に、ざわざわと心が落ち着かず、 それでようやく自分の気持ちに気がついた。 年上の幼なじみへの憧れではなく、青子を一人の女性として愛している自分に。 あの時も青子は屈託なく笑いながら同僚の男性教師の話をしていただけなのに、 どす黒い嫉妬に捕らわれて暴走してしまった。 焦っていたのだ。 いつまでたっても子ども扱いしかしてくれない青子に。 青子が遠く離れてしまいそうで不安で堪らなかった。 「青子が好きなんだ。」 間近で囁かれた言葉に、青子の瞳が大きく見開かれた。 「ウソ・・・」 「嘘なんかじゃねーよ。青子が好きだ。」 「で、でも、私は教師で・・・」 「そんなの関係ねぇ!」 強く言い切った快斗に青子は口を噤んだ。 「教師と生徒だってのが気になるなら、オレが学校を辞めれば良いだけだし。」 「そ、そんな無茶な事を言わないでよ!」 「無茶じゃねーよ。オレはマジシャン志望だから、学歴なんて関係ねーし。」 快斗の言葉には迷いがなく、彼の本気が青子にも伝わった。 そんなのは嫌だと思った。 快斗が学校を辞めてしまうなんて。 自分の本音を思い知って、青子は小さく唇を噛んだ。 快斗の事を生徒だなんて思った事はなかった。 ずっとずっと前から快斗が好きだった。 大学生だった時、実家にあまり帰らなかったのは、快斗の事をこれ以上好きになってしまうのが 怖かったからだ。 快斗の学校に赴任が決まった時、嬉しいと思うと同時に恐れもあった。 快斗が彼女を作って幸せそうにしている姿なんて見たくなかったから。 けれど、快斗は前みたいに青子を慕ってくれて、特別だと錯覚させる笑顔を見せてくれた。 その事はとても嬉しかったけれど、自分の気持ちを気づかれないように、 わざと快斗を子供扱いして予防線を張っていた。 本当はあの時のキスだって嫌ではなかった。 でも、教師という立場と、何より6つ年上だという事実が気になって、快斗を突き放してしまった。 「わ、私は快斗より年上だし・・・。」 「それも関係ねーよ!」 震える声で青子が口にしたずっとこだわっていた事柄にも、打てば響くように快斗は答えた。 「青子が青子だから、オレは好きなんだよ。」 「快斗・・・」 快斗は真っ直ぐに青子の視線を捕らえた。 「なぁ、青子はどう思ってる? 生徒じゃなくて、幼なじみでもなくて、黒羽快斗自身をどう思ってる?」 もう誤魔化せなかった。 快斗の真摯な眼差しが、青子がずっと心の奥に封じていた気持ちを開け放った。 「わた・・・青子も快斗が好き。」 「え?」 求めていた答えを聞いたというのに、信じられないといった表情を浮かべた快斗がおかしかった。 「青子も、快斗が好きだよ。」 今度は幾分ゆっくりと言った青子に、快斗の顔に次第に嬉しそうな笑みが広がった。 快斗の腕が青子に回ってきつく抱き締める。 青子はあの時は拒絶する為に伸ばした手を、今度は彼の背中を抱き締める為に伸ばした。 重ねられた唇を合図に、誰にも秘密の関係が今、始まる ・・・もっと甘え上手で押せ押せな快斗を書くつもりだったんですが、いつの間にか余裕のない 切羽詰った快斗になってしまいました(苦笑)まぁ、年下だからこれも良いって事で。 ちなみに、快斗が暴走したらしいあの時も、これから先も、全然考えていません。 本当ならゴミ箱行きなんですが、秘められた関係と聞いてこれしか浮かばなかったので ご容赦下さい。・・・ってのはダメでしょうか?(笑) |
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