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「ねぇ、やっぱりズルいと思うの」 「・・・おめーな、今年もそれかよ」 呆れたように呟きながら、渋々と起き上がった快斗は、大きな欠伸を漏らす。 その様子は、青子の言うことを全く取り合っていないように見えて(見えるだけじゃなくて、 たぶんその通りだ)、青子はムッと唇を尖らせた。 「ちゃんと聞いてよ!」 「ったって、毎年同じこと言ってんだろーが。耳タコだぜ」 そう返しながら、無造作に手をやった彼の頭は、見事な寝癖でボサボサだ。そんな状態でもう一度、 大きく欠伸する顔は、全くもってだらしがない。 今更そんなことで呆れる筈もない青子だが、それでも、もう!と怒りながら幼馴染み兼恋人の顔に 向かって、枕を投げつけた。 「おわっ。何しやがる、このアホ子!」 「何よ。バ快斗が悪いんでしょ!」 至近距離とはいえ、素直にぶつけられてくれるほど可愛くもない彼は、難なくそれを受け止めて 文句をつける。 でも、人の話を聞いていないのは快斗の方なのだ。責められて然るべきだろうと、 青子はふんぞり返った。 「だーかーらー。毎年毎年、だな。 人ンちに押しかけて来て、俺を叩き起こすなり同じこと言ってんのは、どこの誰だっつーの」 おはよう、でもメリークリスマス、でもなく。 ずるい、と。 「毎年、言われるようなコトしてるのは快斗でしょうが」 つん、とそっぽを向いて腕を組んだ青子だが、実は言葉面ほど機嫌が悪い訳ではない。マトモに 取り合ってもらえないのが悔しいだけだ。 言われるようなコト、というのはつまり、クリスマスイヴの話。 彼が怪盗キッドであった頃から、とっくにそれを廃業した今になっても、青子は快斗と朝を 迎えたことは無い。 流石に来春には大学を卒業する今、彼氏とデートで泊まり、と言ったところで、 父がそう目くじら立てることもないと思うのだが、年末の慌しい時期を、キッド専任でなくなったからと いってもやはり、忙しいことに変わりない父をよそに遊びに行くのは気が引けて。 それに、快斗の方も母一人子一人である以上、少なからず気がさすものがあったらしい。特に彼は、 数年前まで必要以上に心配をかけていたクチだから、尚更だ。 そんな訳で、たとえクリスマスイヴであっても、デートの締めくくりは彼女の自宅で、いつも快斗は、 青子が眠っている内に帰ってしまうのが常だった。 それでも眼が覚めた時、寂しいと思わずに済んでいるのは、彼が枕元に残していくプレゼントが あったから。 目が覚めて1番に視界に入るのは、快斗がくれる想いの形で、青子は毎年わくわくとしながら その箱を開ける。 子供の頃、サンタクロースからのプレゼントを開けた時と同じように。 そして、それを抱きしめながら快斗の家へ駆けて来るのだ。見て見て!とやっぱり子供の頃、 喜びの余り自慢せずにいられなかったように。 けれど、快斗は丸っきり、いつものままで。 青子にはこんなに嬉しい朝なのに(それでも訪ねて来るのは、大抵そこそこの時間になっている のだが)、快斗にとっては何でもないいつもの朝で、クリスマスなんて覚えてませんという顔をして、 惰眠を貪っているのを見ると、悔しくなる。どうしても、ずるいと思ってしまう。 昨日の夜も今朝だって、青子の心は彼のおかげで日常とは程遠いというのに、何でそんな顔して ピーヒャラ寝てるのよ!という訳だ。 毎年、ちゃんと付き合って。そうしてちゃんと、起こしに来てやっているというのに。彼の思惑通りの クリスマスプレゼントで、いてやっている自分が、バカみたいではないか。 そういう、喜び半分、悔しさ半分の表れが、「ズルい」という言葉なのだけれど、果たして快斗は、 解っているのかいないのか。 そう思いながら青子は、右手に輝く細身のリングを眺めた。 それは、今年のクリスマスプレゼント。 華奢な作りに、はめこまれた青い石は、彼女の誕生石であるサファイア。 せめてこんな物をくれる時くらい、トクベツであっても良いのにと思うのは、過剰な期待だろうか? 「んーじゃ、どうしろって?」 欠伸を噛み殺しながら尋ねる快斗を、もう一度呆れたように睨んでから、青子はちょっと考えるフリを する。 「そうねぇ…たまには快斗が、青子を起こしに来てくれるとか?」 枕元のプレゼントだって、もちろん嬉しいのだけれど、彼が直接渡してくれる方がきっと、 何倍も嬉しいに違いないのだから。 そこまでは口にしなかったが、快斗はきちんと読み取ったらしく、バーロー、と笑いながら 肩を竦めた。 そうして、ちょっと呆れた素振りで溜息をひとつ。 「そう思うんなら、逆だろ?」 「へ?」 きょとん、と首を傾げる青子に向かって、彼の手が伸びてくる。 魔法を見せてくれるその手が軽やかに動き、青子の右手から指輪を抜き取って、左手の薬指へと 移すのを、彼女は呆然と眺めた。 「いつから起こしてもらうかは、おめーが決めろよ。俺は別に、来年でも再来年でも良いけどな」 ニッと笑う彼が、何を言っているのか分からない。 いや、分かるのだけれど…解る、のだけれど。本当に、青子の理解したその通りで 良いのだろうか? 「え、えええっと。 あの、か、快斗…これって?」 「夢じゃねーぜ?」 青子が何を訊きたいか、百も承知でそう返してくる彼の瞳に浮かぶのは、やっぱりいつもの、 悪戯っぽい光。 ・・・・・もう、本当に。 ズルいったらズルい。 思いはしても口には出せないまま、真っ赤になっているだろう顔を背けた青子の耳に、 楽しそうな笑い声が響いて、また腹が立つ。 「〜〜〜笑わないでよ、バカイト!」 「何だよ、アホ子〜〜〜」 もう1回、横にあった枕を取り上げて、今度は投げずに振り上げ、バンバンと彼を叩いたのだが、 片腕でそれを防いだ快斗は、空いた手で青子を掴まえて引き寄せた。 文句を言う暇もなく、唇が塞がれる。 そのまま枕を取り上げられても、抱き竦められて動けない。 (やっぱり、ズルいったら!) そう言いたいのに言えない青子は、少し迷った後、そろそろと両手を上げて、彼の背中に回した。 重ねられたままの唇に、笑みの気配がする。 ちゃんと。快斗の口から、ちゃんとした言葉で聞きたいのだと、そう伝えるつもりでその背を ぎゅっと握った青子の気持ちも、恐らくはお見通しなのだろう。 こういう時にばかり意地悪をしたがる幼馴染みの性格は、よくよく承知している彼女だが、それでも。 快斗が言わないのなら、青子も言ってあげない。 そう決めてしまったこの気持ちも、きっと彼には伝わっていることだろうから。 心の中だけで小さく笑いながら身体の力を抜いた青子は、この後にくるものを疑わないまま、 あたたかな腕の温もりに身を委ねた。 唇が離れたその時に。 囁かれるのはきっと、キスよりももっと、甘い言葉。 <了> |
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+++++++++++++++++++++++++++++++ こちらの話も、2004年クリスマス企画の時に便乗で誕生日祝いに 頂いてしまいましたv 良い時に生まれたなぁとしみじみと思いました(笑) このお話、拗ねてる青子ちゃんが可愛くて可愛くてv 青子ちゃんって楽しい事や嬉しい事があったら、飛んでいって快斗に いちいち報告してそうなイメージなんですよね。 だから、この青子ちゃんはイメージぴったりで。 せっかく飛んできたのに快斗が寝てた日には拗ねたくなるのも よく分かります(笑) ちゃんと快斗本人からプレゼントが欲しいというのもとても可愛かったですv そして、ゆうきさんの快斗らしいプロポーズの仕方で(笑) 青子ちゃんの気持ちをちゃんと分かってるからこそ、余裕たっぷりな快斗が 素敵です♪ ゆうきさん、サプライズなプレゼントをどうもありがとうございましたv +++++++++++++++++++++++++++++++ |
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