酔ってる間に


憎き宿敵シャーカーンを倒した夜、ユグドラのガンルームでは大宴会が催されていた。
航行に必要な最低限のクルー以外全員が集まっており、ガンルームはごった返していた。
その中にはマルーの姿もあった。
碧玉要塞で怪我をしたマルーは安静を言い渡されていたが、この勝利は彼女が必死でギアバーラーを
守ったおかげでもあるため、少しだけならとシタンにお許しをもらったのだ。
マルーは中心で騒いでいるバルトを見つめていた。
バルトの表情は念願がかなったためか、どこか晴れ晴れとしていた。
そんな表情を見てマルーもうれしさを感じながら、手にしているグラスを空にした。
ジュースだと思った中身が、実はカクテルだと知らないで。


ガンルームの中心でバカ騒ぎを繰り広げていたバルトは、ふと部屋の端のほうを見て目を疑った。
マルーがビリーに抱きつくようにしてもたれ掛かっていたのだ。
バルトは急いで騒ぎの輪を抜け出し、マルー達の方へ向かった。
「おい、ビリー!マルーに何してやがる!」
バルトが文句を言うと、ビリーはむっとした表情をした。
「なに勘違いしてるんだよ。マルーさん、間違ってお酒を飲んでしまったらしくて酔っ払ってるんだよ。」
ビリーの言葉にマルーを見ると、頬がほんのり赤くなっていてかなりごきげんな様子だった。
「あっ、わかぁ〜。楽しんでる〜?若ももっと飲まなきゃ〜。主役なんだからさ〜。」
そう言ってグラスを渡そうとするマルーに、バルトはあちゃーと顔をしかめた。
完全に酔っ払ってしまっていた。
とりあえず、この状況はむかつくのでビリーからマルーを引き剥がして立たせた。
その時、ビリーがほんの少しがっかりしていたのにバルトが気付かなかったのは幸運だった(笑)
「ほら、マルー。部屋行くぞ。」
「え〜、やだぁ。まだ、ここにいる〜。」
「なに言ってんだ。お前、ホントは安静にしてなきゃだめだろ。」
マルーの腕をつかみ、バルトはどうにかガンルームの外まで出た。
が、そこでマルーが座り込んでしまった。
「もう動けな〜い。」
「『動けな〜い』じゃねぇ。部屋まで頑張って歩けよ。」
「だってぇ〜、足が痛いんだも〜ん。」
バルトは言葉につまってしまった。
マルーが怪我をしてしまったのは自分の責任でもある。無理に歩かせるわけにもいかない。
しょうがないのでマルーをお姫様だっこ(笑)することにした。
おんぶするとちょうどマルーが怪我したところに手があたってしまうからだ。
そうしてマルーを運んでいるうちに、バルトはだんだんと変な気持ちになってきた。
(やべぇよなぁ。マルー寝かしたら、とっととガンルームに戻ろう。)
そうこうしている内に、マルーの部屋についた。
チュチュもプリムも宴会に参加しているため部屋には誰もいない。
マルーをベッドに寝かせて、バルトはさっさと部屋を出て行こうとした。
しかし、後ろから上着をつかまれてバランスを崩し、ベッドに倒れこんでしまった。
「いってぇー。なにすんだよ。」
バルトが頭をさすりながら体を起こすと、マルーがいきなり抱きついてきた。
「マ、ママ、マルー?」
「行っちゃやだ。ここにいて。」
「ば、馬鹿なこと言うな。お前は安静にして寝なきゃだめだろ。」
バルトはそう言ってマルーを離そうとしたが、マルーはこんな華奢な腕のどこにそんな力があるのかと
思うほどの力でしがみついて離れない。
「マルー、離せよ。さもないと襲うぞ。」
「いいよ。」
冗談のつもりの言葉に、実にあっさりと返事をされてバルトは固まってしまった。
「ボクね、小さな頃からずっと若のことが好きだったんだ。」
マルーは潤んだ瞳でバルトを見上げた。
「ねぇ、若。若はボクのこと、どう思ってるの?」
「ど、どうって・・・」
バルトはマルーのことを妹みたいなもんだと思っていた。そう、あの時までは。
マルーが撃たれて気を失ってしまい死んでしまうのかと思った時、ものすごい恐怖が襲ったのだ。
足元から世界が崩れ落ちて、暗闇に一人放り出されたように感じた。
それで、ようやく自分の思いに気付いたのだ。
きっとマルーがいなかったら、先王の忘れ形見としての重圧から逃げ出してしまっただろう。
いや、それ以前にシャーカーンに幽閉されていた時期を耐え切れなかっただろう。
そんなにもマルーに依存していた自分に苦笑しながら決心したのだ。
なにがあってもマルーは守りきる。もう離しはしない、と。
でも、バルトにはそんな思いをスマートに言える才能はなかった(笑)
「俺もマルーのこと、すっ、すっ、好きだ。」
結局、単純な言葉だけになってしまったが、マルーはうれしそうに微笑むとバルトの方に倒れこんだ。
バルトの心臓がドキンと跳ね上がった。
やわらかなマルーの肩を抱きながら尋ねる。
「いいのか?」
マルーが腕の中でうなづいた。
次の瞬間、バルトはマルーを押し倒して唇を重ねていた。
が、唇を離し顔を上げてガクッとした。
なんと、マルーが寝てしまっていたのだ。
「そんなんありかよ・・・」
さっきうなづいたと思ったのは、寝てしまって頭が下がっただけだったのだ。
このまま続けてしまおうかとも思ったが、安心しきった寝顔を見るとそんなことはとてもできない。
バルトは仕方がないのでガンルームに戻ろうとした。
しかし、マルーがしっかりとしがみついているので身動きが取れなかった。
「うげっ。このままで一晩過ごすのか。」
とっても情けない声が出てきてしまったのもしょうがないだろう。
バルトにとって幸せだけれども試練の夜が更けていった。


翌朝。
マルーはひどい頭痛のために目を覚ました。
そして、隣で眠っている人物を見て驚きの声をあげた。
「若!」
バルトがどうしてここにいるのかさっぱりわからなかった。
「マルー、もう起きたのか?」
マルーの声に目をこすりながらバルトも起きあがった。
しかし、マルーは返事をせず、ひどい頭痛の中、必死で昨日のことを思い出そうとしていた。
「ひょっとして、昨日のこと憶えてないのか?」
バルトが恐る恐る尋ねた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」
長い沈黙のあとにマルーがポツリと答えた。
「どこから憶えてねぇんだよ?」
「宴会でジュース飲んだあとから。」
バルトはマルーの答えにやっぱりと思いながらも、ガックリと肩を落とさずに入られなかった。
その様子にマルーは不安をおぼえたようだった。
「ボク、若と何かあったの?」
何もなかったと答えかけて、バルトは急に気が変わった。
お預けをくらい、すっかり忘れられてしまったのだ。少しぐらいいじめてもバチはあたるまい。
「あーあ、憶えてないのか。昨日はあっつい夜を過ごしたのにな。」
「えっ。・・・嘘でしょ?」
「嘘なもんか。昨日のお前、すごかったぜ。」
マルーの顔がどんどんと蒼白になっていった。目には涙が浮かんでいた。
やり過ぎたかとバルトは慌てた。
「バーカ。冗談だよ。よく見てみろよ。俺もお前もしっかり服着てるだろうが。」
マルーは自分を見下ろしバルトも見て、安堵のため息をついた。
そして、バルトをキッとにらんだ。
「もう、なんてこと言うのさっ!ボク、本気で心配したんだからねっ!」
「悪かったよ。」
素直にバルトは謝った。マルーを本気で怒らせると後が怖い。
「それで、どうして若がここにいるの?」
「お前が間違って酒飲んでつぶれたから連れて来たんだよ。そしたら、お前が俺の服つかんで
 離さないから帰れなくて、結局俺もここで寝る羽目になったんだ。」
「そうだったんだ。」
マルーの怒りはどうにか収まったようだった。
「じゃ、俺は行くから。お前はゆっくり寝てろ。」
「そうする。頭痛がするし。」
バルトはドアに向かった。その背中に向けてマルーが声をかける。
「若、連れて来てくれて、ありがとね。」
手を上げてそれに応えて、バルトは部屋から出ていった。
マルーはベッドにもぐりこみながら、ふと昨日見た夢を思い出した。
バルトに告白したら彼も同じ気持ちだったのだ。それから、押し倒されてキスもしたような・・・?
そんなことを考えてるうちに睡魔に負けて、マルーは安らかな眠りへと落ちていった。


一方バルトは、マルーが安眠をむさぼっている時、マルーを部屋に送っていったまま
帰ってこなかったことで、人に会うたびにひやかされていた。
必死の告白もキスしたことも忘れられ、みんなにからかわれ、踏んだり蹴ったりのバルトであった(笑)


<了>




あきらさんが主催されたお茶会に参加させて頂いた時に、その席で出た話をネタに書きました。
書いててメチャ面白かったです(笑)
私も酔った勢いでこれ書いたので、もうこんな悪ノリは書けないかな?(笑)
李那さんのHPでキリ番を取った記念に、これに挿絵をつけて頂きました〜(^^)
李那さんの素敵なイラストへはこちらからどうぞ!!



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