Special Day


穏やかな昼下がり、ユグドラシルの一角にあるマルーの部屋に少女達の明るい声が響いていた。
「さぁ、マルー。この服を着てみて。」
「でも、エリィさん。これ、本当にもらちゃってもいいの?」
「もちろん。あなたの為に買ってきたんだから。」
エリィと一緒にこの部屋を訪れていたマリアも、エリィの言葉を肯定するように後を押す。
「そうですよ。わたし達が共同で買ってきたんですから、是非とも着て頂かないと。」
「それじゃあ、遠慮なく頂きます。どうもありがとう!」
嬉しそうに笑ってマルーは差し出された服を受け取った。そして、言われるままに着替え始める。
数分後、マルーは彼女の瞳と同じ蒼いワンピースに身を包んでいた。
「どうかな?スカートなんてずっとはいてないから、ちょっと恥ずかしいな。」
照れくさそうにしながら、マルーが二人に尋ねた。
「すごく似合ってるわよ。ね、マリア。」
「えぇ。素敵ですよ、マルーさん。」
買ってきた自分達の選択は間違ってなかったと頷き合いながら、エリィとマリアが口々に誉めた。
「ホントにかわいいでチュよ。マルーしゃんはスカートも似合いまチュね〜。」
ずっと部屋にいて様子を見ていたチュチュも口を挟んだ。
「プリムしゃんもそう思いまチュよね?」
いきなり話を振られてプリムは少し驚いたようだったが、マルーの方を見てしっかり頷いた。
「へへへ、ありがとう。」
みんなを見廻しながらマルーが言った。
「じゃあ、後は仕上げだけね。」
「仕上げ?」
不思議そうな顔をするマルーに、エリィが悪戯っぽい笑みを向けた。
「そうよ。そこの椅子に座って。」
エリィが指差した方に、マリアがマルーを引っ張っていって、鏡の前に座らせた。
その間に、エリィが持ってきた小さなバッグから何やら取り出して、マルーの前に並べた。
「これは何なの?」
「ふふ、化粧品よ。実は、マルーに1回でいいからお化粧してみたかったのよね♪」
「えーっ!!」
マルーが驚きの声を上げている間に、エリィがさっそく化粧を始める。
「ちょっと、エリィさん!やめてよ。」
「たまにはいいじゃない。やっぱり普段してないせいか、お化粧のノリがいいわ。」
マルーの抗議などものともせず、エリィは手を動かし続けた。
「私って一人っ子でしょ。こういうのに憧れてたのよね〜。」
「エリィさんってば、完全にボクで遊んでる!マリアも笑って見てないで止めてよ。」
はしゃぎまくっているエリィを止められそうにないので、すぐ横に立っているマリアにマルーは
助けを求めた。
しかし、マリアは無情にもエリィの味方についた。
「マルーさんは色が白いから、もう少し優しい色のほうがいいんじゃありませんか?」
マルーが恨めしそうな視線をマリアに向けた。
申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、マリアが最後通告をする。
「ごめんなさい。少しの間、動かないで下さいね。・・・だって、楽しいんですもん。」
「あ〜、もう!わかりました。じっとしてればいいんでしょ!」
二人にタッグを組まれてはとても太刀打ちが出来ない。マルーは早々に白旗を揚げることにした。
「そうそう、そのまま・・・。あ、もうちょっと顔を上げて。」
返事をする気力もなく、マルーは言われた通りにした。
あれやこれやといろんなことをされて、マルーがかなり疲れてきた頃、ようやく二人がマルーから離れた。
「完成!ね、鏡を見て。」
逆らうこともなく素直に鏡を覗いたマルーは固まってしまった。
(これがボク?)
いつものどこか少年めいた様子の自分ではなく、そこには驚いた顔をした一人の少女が映っていた。
あまりにも完全に女の子となってしまった自分に少々複雑な気持ちがした。
しかし、マルーはそんなことを顔に出さず、満足げな面持ちでこちらを見ているエリィ達に言った。
「あの、ありがとう。なんだかボクじゃないみたいだけど。」
「そんなことないわよ。かわいいわ。」
マルーのお化粧騒動が終わったのに気が付いて、隅で遊んでいたチュチュ達も寄ってきた。
「マルーしゃん、きれいでチュよ。」
エリィ達の手腕に感心したようにそう言うと、チュチュはニヤリと笑った。
「これなら、バルトしゃんもイチコロでチュね。」
「な、なに言って・・・」
「そうでしょ〜。これで鈍感なバルトも少しは行動にでるかしらね?」
「もう、エリィさんまで!」
真っ赤になってしまったマルーを、エリィは優しい眼差しで見つめながら一つの提案をした。
「今日は街の方でお祭りがあるみたいだから、バルトと二人で行ってきたら?」
「え?こんな時にそんなことはできないよ。」
ここ数日、穏やかな時間が続いていて戦いの最中にいる事を忘れてしまいそうになるが、
遊ぶ為にユグドラシルに乗っているわけではない。
しかし、そんなマルーの思いもエリィにはお見通しだった。
「こんな時だからよ。今日は特別な日なんだし、それぐらい許されるわよ。」
マルーの気持ちを軽くするように、ウィンク付きでそう告げる。
「そうかな・・・。」
しばらくの間、宙を見つめて考えて、マルーは結論を出したようだった。
「うん、そうだね。若を誘ってみるね。たまには息抜きも必要だし。」
「きゃっ、デートでチュね。」
すかさずチュチュがマルーをからかう。
「チュチュ!だから、ボクと若はそんな関係じゃ・・・」
「はいはい、わかったから、とりあえずガンルームに行きましょう。」
また赤面して反論するマルーに最後まで言わせずに、エリィが話を変えてしまう。
「そうですね。せっかくですから、皆さんにもマルーさんを見てもらいたいですし。」
マリアがすぐに賛成の意を示した。
「ボクは見てもらわなくてもいいんだけど。」
「そんなこと言わないで。私は頑張った成果をみんなに見てもらいたいわよ。」
エリィはそう言うと、渋るマルーをガンルームに連れていった。


休憩する為にガンルームにやって来たバルトは、人だかりができているのに気付いた。
その中心にいるのは見たこともない少女だった。
(あんな奴、ユグドラに乗ってたっけ?・・・って、マルー!?)
バルトは思わず目を疑った。
問題の人物は、彼の年下の従妹だった。
いつも短パンで駆け回っているマルーだったが、今日はなぜかワンピースを着ており、
やけに女の子らしい雰囲気を漂わせていた。
(一体どうしたんだ?)
不思議に思いながら近付いていくと、マルーの回りを取り囲んでいる人達の声が聞こえてきた。
「いや〜、エルヴィラ様の若かった頃を思い出しますな。」
メイソンが感心しきった声を出した。
マルーはすぐにブンブンと首を振った。
「そんなことないよ。よく覚えてないけど、ママってすごくきれいだったってことだけは印象に残ってるもん。
 ボクなんか、足元にも及ばないよ。」
「何を言ってるんですか。マルーさんもとてもきれいですよ。」
妙に熱心な口調でビリーがマルーに向かって言った。
「どうもありがとう、ビリーさん。」
はにかむように少し頬を赤く染めて、マルーがビリーに笑顔を向けた。
バルトはその様子を遠くから眺めていて、理由はわからないが、胸にモヤモヤとした気持ちが
浮かんでくるのがわかった。思わず、足が止まっていた。
しかし、バルトが自分の気持ちがなんなのか突き詰める前に、彼に気付いたエリィが声をかけてきた。
「あっ、来た来た。何してるの?もっと近くに来なさいよ。」
エリィがバルトの腕を取って、マルーの近くまで連れていった。
「どう?かわいいでしょ。」
自慢げにエリィが言うと、マルーが少し困ったような笑みを浮かべた。
「ヤダって言ったのに、エリィさん達に遊ばれちゃって。変じゃないかな?」
「あら、私達の腕を信じてないの?」
「マリアの腕は信じてるけどね。」
「あ〜、ひどいな。一生懸命、頑張ったのに。」
「冗談だよ、冗談。エリィさんの腕も信じてるって。」
まるで姉妹のように軽口を交わしあった後、エリィがバルトの方を見た。
「感想は?きれい過ぎて言葉も出ない?」
「そ、そんなことあるわけねぇだろ!」
「正直じゃないね。さっきからマルーさんにみとれてたくせに。」
ビリーにあきれたような視線を向けられて、さっきの気持ちが蘇ってきたこともあって、
バルトはイライラした気分になっていた。
「ちげーよ!大体、マルーにはそんな女っぽい格好は似合わねぇよ!」
気がついたら、そんな言葉が口から飛び出していた。
言ってしまってから、しまったと後悔する。
慌ててマルーの方を見ると、うつむいてしまっていた。
「そうだよね。ボクには似合わないよね。」
マルーの表情は見えなかったが、声はさっきまでと違ってかなり沈んでいた。
「あ、あのさ、そういうつもりじゃ・・・。」
「いいよ。ホントのことだもん。」
顔を上げて少し悲しげな笑みと共にそう言うと、マルーは振りかえることもなくガンルームから出ていった。
残されたバルトに部屋中の非難の視線が集中した。
「バルト!なんてこと言うのよ!」
「まったく素直じゃないにも程があるね。マルーさんがかわいそうだよ。」
これみよがしに、ビリーが大きくため息をついた。
「なんだよ。本当のこと言っただけじゃねぇか。」
本心はともかく、意地を張っていた。そんなバルトにエリィが目を吊り上げる。
「なんの為にこんなことをしたと思ってるのよ。今日がなんの日か、すっかり忘れてるわね。」
「・・・忘れてねぇよ。」
「え?」
バルトがボソッとこぼした言葉に、エリィの動きが一瞬止まる。
この間に、その場から逃れるようにバルトはドアの方へ向かった。
「ちゃんとマルーに謝りなさいよ。」
エリィのが言葉が届いているのかいないのか、返事をすることもなくバルトもガンルームから
出ていったのだった。


ガンルームから飛び出したマルーは、祭りが開かれている街に来ていた。
部屋に戻ってもふさぎ込んでしまうだけだと思ったのだが・・・。
(失敗したな。ユグドラに残れば良かった。)
確かに祭りの賑やかな雰囲気は、自然と心を弾ませてくれるものだった。
しかし、楽しそうにしている人達の中で、一人でポツンといるのは寂しかった。
(若と来るはずだったのになぁ・・・。若のバカ。)
なんだかんだ言って、バルトの反応が楽しみだったのだ。
でも、返ってきたのは期待していたのとは全然かけ離れた言葉で。
(別にいいけどね。ボクは若の子分になりたいんだから。似合わなくたっていいもん。)
心の奥で何かがざわめいていたが、マルーはわざと気付かない振りをした。
それがわかってしまったら、もっと傷ついてしまいそうだったから。
「さて、どうしようかな?」
気分を変える為に、わざと声に出していってみた。
その時、後ろから来た人に突き飛ばされ、マルーは前に倒れかかった。
(転んじゃう!)
地面にぶつかることを覚悟したマルーだったが、いつまでたっても衝撃はやって来なかった。
いつの間にか日に焼けた腕が伸ばされ、自分を支えていたのだ。
(若!?)
急いで振り返ったが、そこにいたのは見知らぬ青年だった。
「大丈夫?ぼうっとしてたら危ないよ。」
「あ、ありがとうございました。」
がっかりした気持ちを押し隠して、マルーはお礼を言った。
「どういたしまして。ところで、一人なの?」
「はい。一緒に来てくれる人がいなくて。」
「そうなの?こんなにかわいいのに意外だなぁ。」
「ボクなんか、全然かわいくないですよ。」
さっきのバルトの言葉が蘇ってきて、マルーの表情が一瞬のうちに暗くなる。
「『なんか』なんて言っちゃダメだよ。せっかくかわいいのに自分で自分のことを卑下しちゃったら、
 魅力が半減しちゃうよ。」
マルーは優しく微笑まれて、心が軽くなっていくのがわかった。
「そう、ですね。今度から言わないようにしなくちゃ。」
マルーにも自然に笑みが浮かんでいた。
「そうそう、笑ってる方がもっとかわいいよ。ところで、なんだったら一緒にお祭りを回らない?」
「え?」
「俺も一人でちょっとつまらなかったんだ。」
いきなりの誘いにマルーが戸惑っていると、青年が手を差し出してきた。
「行こうよ。一人じゃ楽しくないし。」
青年の手がマルーの手を掴もうとした瞬間。
パシッとその手を弾いて、マルーの手をひったくっていった人物がいた。
二人とも驚きに目を見開いて、その人物の方を見た。
「若!!」
マルーが思ってもみなかったバルトの登場に驚きの声をあげた。
しかし、バルトはマルーの方を見ることもなく、青年の方を睨みつけた。
「わりぃな。こいつは俺の連れなんだ。」
そう言い捨てると、バルトはマルーを引っ張ってその場を離れた。
バルトが一体どんな風に凄んだのか、青年が追いかけてくることはなかった。
「若、放してよ。手が痛い。」
何も言わずにどんどんと歩いていくバルトから、マルーは手を振り解いた。
バルトは少し先まで歩いてから立ち止まった。
「お前は隙がありすぎるんだよ!」
ようやく話したと思ったらいきなり怒られてマルーはカチンときた。
「隙なんてないよ!」
「隙だらけだろうが。今も変な男に引っかかってたくせに。」
言い争っているうちに、二人ともどんどん声が大きくなっていった。
周囲の者達は、ある者は興味深げに、ある者ははた迷惑なというような表情をしながら、
少し遠巻きに二人の様子を眺めながら通っていく。
ちょっとした注目を浴びていることにまったく気付かず、二人は言い争いを続けた。
「引っかかってなんてないよ。それに、今の人だっていい人だったもん。」
「お前はそれだからつけ込まれるんだよ!」
バルトはお人好しなマルーの発言に苛つくものを感じながら、一際大きい声で言った。
「かわいい格好してるんだから、気をつけろよな!」
「えっ!」
マルーはバルトの方を見つめたが、彼は口を押さえて後ろを向いてしまっていた。
「若、今なんて言ったの?」
「何も言ってねぇよ。」
勢いに任せて本心を口にしてしまったが、マルーに聞こえていなかったかもという微かな期待を持って、
バルトは素知らぬ振りをしようとした。
耳まで赤くなっていては全然説得力がなかったが。
「『かわいい』って言ってたよね?」
バルトの願いもむなしく、マルーにははっきり聞こえていた。
ただ、とても信じることができなかったから、彼の口からもう一度聞きたくて確認した。
『ちげぇよ。』
反射的にバルトの口から否定の言葉が出そうになった。
が、先程のマルーの悲しげな顔を思い出して止まってしまう。
あんな顔はもうさせたくなかったが、素直に誉めるなんて恥ずかしすぎてとてもできない。
色々と考えた末、バルトはそれとわかるかわからないかぐらい小さく頷いた。
これが、ギリギリの妥協策だった。
マルーはバルトの精一杯の心遣いにちゃんと気付いた。自然と笑みが浮かんでくる。
腕を伸ばして、こっちを見ていないバルトの腕に絡めた。
「マ、マルー?」
マルーのいきなりの行動に驚いて、バルトが未だに赤い顔で彼女の方を見た。
「せっかくだから、お祭りを見て行こうよ。」
「それはいいけど腕を放せよ。」
これではまるで恋人同士みたいだと思って、さらにバルトの顔が真っ赤になる。
前を向いているマルーは、そんなバルトの様子に全然気がついていないようだった。
「いいじゃない。こうしたらはぐれないでしょ?」
無邪気に楽しそうにしているマルーに、それ以上バルトは反論できなくなった。
「じゃあ、お祭り見物に出発!」
そうマルーは宣言すると、バルトの腕を引っ張って人込みに向かっていった。


あちこちと祭りを見て回ってユグドラに帰る途中、バルトとマルーの二人は街を見下ろせる
小高い丘の上で座って休憩していた。
夜も迫ってくる時間で、夕日が全てを赤く染め上げていた。
黙って暮れゆく街を眺めている時、思い出したようにマルーが口を開いた。
「若、今日は付き合ってくれてありがとね。」
「まぁ、今日はお前の誕生日だからな。」
マルーはびっくりして隣に座っている従兄を見上げた。
「覚えててくれたの?」
「たまたまな。ほら、これ。」
ようやくきっかけが掴めたと、バルトはずっと持ち歩いていた包みをポケットから取り出し、
マルーの方に差し出した。
「ありがとう!!ねぇ、ここで開けてもいい?」
目を輝かせて聞いてくるマルーの様子は、見ていてとても微笑ましかった。
「それはお前にやったもんだからな。好きにしろよ。」
照れくさくて少々天邪鬼な答えを返してしまう。
マルーはそんなことを気にせず、早速包みを開け出した。
中から現れたのは、瞳と同じ色のリボン。
「わ〜、きれいな色だね。」
マルーはすぐにつけていたリボンを取って、もらったばかりのリボンに変えた。
「どう?」
まじまじと見るのは恥ずかしい気がして、バルトはちらっと見ただけですぐ視線を逸らした。
「まっ、悪くはないんじゃねぇか。」
「んもう、こういう時ぐらい、素直に誉められないの?」
マルーはふくれてみせたが、バルトがどんな顔してこれを買ってきたのだろうかとふと考えて、
ついつい表情が崩れてしまった。
「なぁに笑ってるんだよ、お前は。」
マルーが何を考えているか分かったのか、バルトは手を伸ばしてマルーの頭を小突いた。
「うわっ。」
いきなりだったせいか、バルトが照れくささのあまり力を入れすぎたのか、マルーが倒れ掛かった。
バルトが急いで手を伸ばしてマルーを引き寄せる。
驚くほど簡単に、マルーの体はバルトの腕の中にすっぽりと入ってしまった。
マルーは倒れなくて良かったと安心すると同時に、バルトに抱きつくような形になっていることに気付いて
顔に熱が集まっていくのがわかった。すぐに離れようと顔を上げた。
一方、バルトもマルーの柔らかな感触に狼狽して、離そうと少女の肩に手を置いた。
そのため、驚くほど近くで見つめ合うことになって、二人とも動きが止まった。
絆を示す同じ蒼い瞳に吸い込まれそうになる。
衝動的にバルトの手がマルーの頬に触れようとした、その時。
ヒューーーーー、ドン!!
大きな音が辺り一帯に響いた。
我に返って、二人とも慌ててパッと離れる。
「なんだぁ?」
気まずい雰囲気を打ち消すように、音がした方をバルトは見た。
そこには色鮮やかな花火が上がっていた。祭りを締めくくる花火大会が街の方で開かれていたのだ。
「うわ〜、きれいだね。」
マルーは先程のことがなかったかのように、いつも通りに振舞って花火を見上げた。
少しがっかりする気持ちを感じながら、バルトも見上げる。
「本当だ。きれいだな。」
そのまま黙って二人は花火の鑑賞を続けた。花火の音以外、何も聞こえなかった。
そうして、花火も終盤に差し掛かった時。
「ねぇ、若。」
花火の音にかき消されそうなくらい小さな声で、マルーが呼びかけた。
なんだというように、バルトが彼女の方を向いた。
「来年もこんな風に誕生日を迎えられるかな?」
きれいだけれども儚く消えてしまう花火を見ていて、少し弱気になってしまったのかもしれない。
今いるのは先の見えない戦いの中。
いつも強くあろうと思っているけれど、たまに弱い自分が顔を出すのだ。
「あったり前だろ。来年もさ来年もその先も、俺がずっと祝ってやるよ。」
マルーから視線を逸らして花火を見上げながら、バルトは力強くそう言った。
「・・・若はすごいなぁ。」
たった一言で不安を吹き飛ばしてくれる。
「別に俺はすごくなんてねぇよ。」
「ううん、すごいよ。ボクが保証する。」
やけに真面目に告げるマルーに、バルトが苦笑を浮かべた。
「俺よか、お前の方がよっぽどすごいと思うけどな。」
どんな時もマルーにパワーをもらっていた。
「どこが?ボクなんて全然すごくないよ。」
「自分が気付いてないだけさ。」
バルトはさらに追求しそうなマルーにごまかすように笑いかけ話題を変えてしまう。
「さてと、そろそろ帰るか。」
辺りはすっかり暗くなっていた。これは、シグや爺の小言の一つも覚悟しなければなるまい。
内心ため息をつきながら、バルトは立ちあがってマルーに手を差し出した。
その手を掴んでマルーも立ちあがる。
丘を吹きぬける夜風がマルーの髪をなびかせた。
それを目で追って、バルトはあることに気付いた。
「あ、わりぃ。リボン、くちゃくちゃになってたな。」
ずっとポケットにいれていた為、リボンにはかなりしわが寄っていた。
「ううん、もらえただけでうれしかったもん。それにもう一つプレゼントをもらったし。」
ずっと誕生日を祝ってくれるという言葉を。
マルーは訝しげなバルトに素晴らしい笑顔を向けた。
思わず赤面して固まってしまったバルトを残して、マルーはユグドラへ続く道を下っていった。
「おい、待てよ。」
マルーの後を我に返ったバルトが急いで追いかけていく。
帰っていく二人を、いつの間にか夜空に浮かんでいた月が優しく照らしていた。


<了>




思ったより長くなってしまってどうなるかと心配したんですが、どうにかまとまってほっとしました。
そういえば、「誕生日」ってギリギリまで出さないように頑張ったんですが、
最初から分かった人いますか?賞品が出るわけではありませんが(笑)
夏なので、お祭りにしたり、花火上げたり、景気良くしてみました(笑)
最後になりましたが、ビビさん、お誕生日おめでとう(^^)



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