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総力をあげてマハノンへ向かう前夜。 フェイとエリィが喧嘩をして部屋へと消えたあと、ガンルームに集まった面々も 解散することになった。 マルーも部屋へ戻ろうとしたが、バルトに呼びとめられた。 「マルー。お前もエリィと一緒にユグドラ降りろよ。」 「どうして?」 聞き返されると思っていなかったバルトはびっくりした。 「どうしてって、危険だからに決まってるだろうが。」 「今までだって危険だったじゃない。」 いつになく聞き分けが悪いマルーをバルトは不思議に思った。 こういうことにはいつも聞き分けが良すぎるくらいなのに。 「明日からは今まで以上に危険なんだ。お前を連れてくわけにはいかねぇ。」 「ボクは平気だよ!」 「お前が平気でもダメだ!」 なかなか納得しないマルーにバルトは少しいらいらしてきた。 その様子に気付きながらも、マルーは言葉を止めることができなかった。 「さっき言ってたじゃない。俺だったら抱きしめてついてくるかって言うって。」 「あれは勢いっつーかなんつーか・・・。とにかく、お前は残れよ!」 それから、バルトはマルーをあきらめさせる為の決定的な一言を口にした。 「ここにいたって、何もできねぇだろう?」 これは嘘だった。 つらい戦いが続く中、マルーの笑顔に何度も励まされた。 マルーと一緒に過ごすだけで安らぎが得られた。 ユグドラの他の乗員もそれは同じだったはず。 でも、明日からは生き残れるかどうか分からない戦いが始まる。 とてもマルーを連れて行くことはできない。 それでも、ちょっときつかったかなと思いマルーのほうを見るとうつむいてしまっていた。 フォローをしようとバルトが言葉を発する前にマルーは顔を上げた。 その目にはかすかに涙が浮かんでいた。 「どうして今更そんなこと言うの? それなら、シャーカーン倒した時に降りろって言って欲しかった・・・」 「そ、それは・・・」 口篭もってしまうバルト。 「もう、いいよ!」 そう言うとマルーはさっきのエリィのようにガンルームを飛び出していった。 バルトはマルーを止めることができなかった。 「まったく、君は何をしてるんだよ。」 それまで、黙って二人の様子を見ていたビリーが口を挟んだ。 「フェイのことをあれこれ言う前に自分のことをちゃんとしなよ。さっさと追いかけたら。」 本当は僕が追いかけたいよ、そう心の中でビリーはつぶやいた。 でも、彼女はそんなこと望んでいないから。待っているのは僕じゃないから。 だから、バルトの後押しをする。彼女の為にできるのはそれだけだから。 「何ぼうっとしてるのさ。早く行きなよ!」 「お前に言われなくても分かってるよ!」 バルトはむっとしたように言い返すと、すぐにマルーの後を追いかけていった。 それを見送って、ビリーは深いため息をついた。 ガンルームを出たバルトはマルーの部屋に向かって走りドアに飛び込んだ。 「あれ、バルトしゃん。そんなに慌てて、どうしたんでチュか?」 部屋にいたチュチュがバルトの剣幕に驚いて尋ねた。 「マルー、帰って来てないか?」 「まだ帰ってきてましぇんけど・・・」 バルトが同じく部屋にいたプリムの方を見ると、チュチュを肯定するようにうなづいていた。 「くっそー。どこ行ったんだ?」 すぐさまバルトはマルーの部屋を出ていった。 「何かあったんでチュかねぇ?」 後に残されたチュチュとプリムは不思議そうに顔を見合わせた。 バルトはマルーを探して艦内を走り回った。 『シャーカーンを倒した時に降りろって言って欲しかった・・・』 探しているうちにさっきのマルーの言葉が蘇ってきた。 そう、本当はあの時マルーを降ろすべきだったのだ。 ニサンに平和が戻り、マルーはユグドラにいる理由がなかった。 それでもマルーを連れてきたのは、自分のわがまま。 もうマルーに無茶をさせたくなかった。 この従妹は自分の為なら命までも投げ出しかねないから。 碧玉要塞でそのことが良く分かった。 だから、自分の目の届く範囲に居て欲しかった。自分の手で守っていたかった。 ここまで考えてバルトは苦笑した。 いや、それは建て前だよな。 本当はマルーの側にいたかっただけ。 小さい頃からずっと一緒にいたから気付かなかった。 でも、あの碧玉要塞でマルーが撃たれた時、この従妹がどれだけ大事な存在かわかったのだ。 気付いてしまったら、もうマルーを離せなくなった。 いつも側にいてマルーを見つめていたかった。 バルトは立ち止まり汗を拭った。 艦内にはもう探す場所は残ってなかった。 「あとは甲板か・・・」 バルトは再び走り出した。愛しい少女のもとに向かって。 マルーは甲板の上に出ていた。 こんな顔のまま部屋に帰ったら、チュチュとプリムに心配をかけてしまうと思ったからだ。 『ここにいたって、何もできねぇだろう?』 夜風にあたっているうちにさっきのバルトの言葉が蘇ってきた。 そう、本当はユグドラを降りたほうがいいとわかっていた。 戦いが続く毎日の中で、自分にできることはあまりにも少なかった。 それでもユグドラに残っていたのは、自分のわがまま。 もう知らせを待っているだけなのは嫌だった。 あの従兄がいるのは生きて帰れるか分からない戦場だから。 アヴェの王都奪還に失敗したとの知らせを受けた時そのことが良く分かった。 だから、すぐに状況がわかるユグドラにいたかった。少しでも役に立ちたくもあったから。 ここまで考えてマルーは苦笑した。 ううん、それは建て前だよね。 本当は若の側にいたかっただけ。 小さい頃からずっと一緒にいた大好きな人。 離れて暮らした時間は、あの従兄がどれだけ大事な存在か再確認させた。 また一緒に暮らすようになったら、もう若と離れられなくなった。 いつも側にいて若を見つめていたかった。 マルーは夜空を見上げてため息をついた。 もうわがままを言っている場合ではなくなった。 「ユグドラを降りなきゃね・・・」 マルーがそう決心した時、愛しい青年が甲板の上に現れた。 後ろから近付いてくる足音と共に、バルトの声がマルーの耳に届いた。 「マルー。ここにいたのか。」 バルトは少し息を切らしていた。 一生懸命探してくれたのが分かってマルーはうれしかった。 「若、さっきはごめんね。ボク、ユグドラを降りるよ。」 決心が鈍らないうちにとバルトに告げた。 バルトの方は見なかった。見てしまうと容易に揺らいでしまうから。 「若の言う通り、ここにいても何もできないもんね。」 バルトはマルーの華奢な後姿を見つめていた。 細い肩はかすかに震え頼りなさげで、バルトは思わずマルーを後ろから抱きしめていた。 「わ、若?」 「さっき言ったのは嘘だよ。」 真剣なバルトの声が頭の上から聞こえマルーは黙った。 「目に見える力だけが力じゃねぇ。マルーの笑顔に俺はいつも励まされてる。 マルーはちゃんと力になってくれてるんだ。」 面と向かってではない為か、普段言えないことがすんなりと言えた。 「でも、今は俺よりもニサンに集まってる人達の方がマルーを必要としてる。だから・・・」 「うん、わかってる。」 力になってくれてるというバルトの言葉がうれしかった。 涙が出てきそうで、マルーは自分に回されているバルトの腕を抱きしめることで堪えた。 「若、絶対、無事に帰ってくるんだぞ。それじゃなきゃ、許さないから。」 「ああ、安心しろ。絶対帰ってくるから。」 バルトはマルーの頭を優しく撫でた。 「俺が約束破ったことなんてねぇだろ?」 「そうだよね。ボク、ずっと待ってるから。」 健気に言うマルーが愛しくてバルトはさらに強く抱きしめた。 ずっと夜風にあたっていたマルーの体は少し冷たくなっていた。 「そろそろ部屋に戻った方がいいんじゃねぇか?」 バルトが腕を解こうとするとマルーがその腕を押さえた。 「大丈夫。もう少しここに居ようよ。」 ユグドラを降りる前に一緒にいられるのは今だけだから。 口には出さなかったマルーの思いをバルトもわかったようだった。 「そうするか。」 バルトは再びマルーを抱きしめた。 お互いの体温を感じながら、二人ともこのまま時が止まってしまえばいいのにと思っていた。 <了> |
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う〜ん、ちょっとマルーがわがままっぽいかな・・・? でも、自分の背負っているものの重さも充分分かっていて、それでも若の側に居たいって気持ちを 書きたかったんです。失敗してるっぽいけど(汗) そういえば、この話を書く前にメモリアルアルバムをやっと買えたので、 ゲーム中のセリフを使うつもりだったのに、使えなくて悔しい思いをしました(笑) |
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