永遠なんて、とっくの昔に信じることを止めていた。


Forever


片翼の天使像の下、俺はマルーを待っていた。
大聖堂の中はたくさんの人達がいたが、シーンと静まり返っていた。
いつもは、こういう雰囲気が苦手だった。騒いでくれてた方がよっほどいい。
けれど、今日はそんなに気にならなかった。
というか、気にしてる余裕がないと言った方がいいんだろう。
俺はめちゃめちゃ緊張していた。
今日は一生に一度の晴れ舞台というヤツだった。
俺としては、友人や知人を呼ぶだけの質素な物にしたかった。
こういう事を大々的にやるのはどうもな・・・。
けれど、爺とアグネスがそれを許してはくれなかった。
俺達以上に張り切って、あれやこれやと決めてしまい、俺達はただただ頷いてるしかなかった。
こういう時、いつもだったらシグが助け舟を出してくれるが、今回ばかりは苦笑して
見ているだけだった。
それだけ、あの二人のパワーが凄かったってことだが。
まぁ、心から喜んでくれてるのが分かるから、強く言えねぇってのもあるけど。
俺は緊張をほぐすように、大きく息を吸い込んだ。
慣れ親しんだ大聖堂の空気に、少し肩の力が抜けた。
ずっと一点を見つめていたのに気付いて、俺は苦笑しながら顔を上げた。
見渡してみると、久し振りに見る顔があちこちに散らばっていた。
フェイとエリィが並んで座っているのが見えた。
二人の間には小さな子供が落ち着きなさげに座っていた。
エリィが顔を下げ、何か言い聞かせるようにしている。
ああしてると、ちゃんと親に見えるよな。
少し感心しながら見ていると、フェイとばっちり眼が合った。
お・ち・つ・け・よ
フェイの口がそう動いた。
余計なお世話だ。そういう気持ちを込めて顔をしかめてみせると、フェイはおかしそうに笑った。
俺もそれに笑顔で応えると、フェイ達から視線をずらした。
だいぶ、余裕が出来てきた。
フェイ達から少し離れた所にビリーがいた。あいつの親父とプリムも一緒だ。
あの親父さんは相変わらずだよな。ドカッと椅子に座り、にやにやとこちらを見ていた。
なんだか気恥ずかしくて、俺は慌てて他の所に眼を向けた。
その途中で、ビリーの横にマリアが座っているのが視界の隅に入った。
さっきは気付かなかったけど、二人とも楽しそうにヒソヒソと話している。
ふ〜ん、こうして見ると結構お似合いかもな。
そんなことをのんびりと考えていたら、すぐ近くから強い視線を感じた。
恐る恐るそっちを向くと、案の定、シグが怖い顔で俺を睨んでいた。
キョロキョロするなって言いたいんだろうな。
俺はこんな時にも小言を忘れないシグに少し呆れた。
式の前には、感激したような顔で微かに涙を浮かべていたくせに。
けど、後でうるさく言われるのも面倒だから、俺は真っ直ぐドアの方を向いた。
ちょうどその時、正面のドアが大きく開き、光が溢れた。眩しくて、俺は何度か瞬きした。
光に目が慣れたら、爺と腕を組みながら、マルーがゆっくりと俺の元へ歩いてくるのが分かった。
純白のドレスに身を包み、ブーケを持ったマルーは、うん、まぁ、その、なんだ。
・・・綺麗だった。きっと、今まで見た中で一番。
思わず、じっとマルーを見つめてしまうと、マルーと眼が合った。
マルーが綺麗に笑った。それに微笑み返しながら、なんの曇りもなくここに立っていられることを、
俺は嬉しく思っていた。



                              .



俺は大聖堂を見下ろせる、ちょっとした丘になっている所で寝転がっていた。
みんな忙しく準備しているらしく、ここにやって来る者はいなかった。
爽やかな風が吹きぬけていく。
本当に眠ってしまいそうになった俺の耳に、風に乗ってマルーの声が届いた。
「若!こんな所にいたんだ。」
俺は昼寝を諦め、渋々と草の上に起き上がった。
周りの景色を楽しむようにゆっくりと近付いてきたマルーが、隣に座り俺を見上げた。
「爺達が怒ってたよ。最後の打ち合わせをすっぽかすなんてって。」
「もう充分やっただろ。おんなじこと、何回も繰り返して。飽き飽きだぜ。」
「そんなことだろうと思った。」
楽しげな声にマルーの方を見ると、どこか共犯者めいた笑顔を見つけた。
「ひょっとして・・・?」
「若を探してくるって、逃げてきたんだ。」
軽く舌を見せながら、マルーが素直に白状した。
「やっぱりな。いい加減、飽きたよな。」
「アグネスとか、すんごく張り切っちゃってるもんね。」
顔を見合わせて二人して溜め息をつくと、それがおかしくて急に笑いがこみ上げて来た。
ひとしきり笑った後、マルーが急に表情を改めた。
「何か心配事でもあるの?さっき、浮かない顔してたけど。」
心の奥底まで見通すような蒼い瞳に、嘘はつけなかった。
「明日、式の中で誓いの言葉ってヤツがあるだろ?」
「うん。それがどうかしたの?」
「・・・お前は永遠なんて誓えるか?俺は、誓えねぇよ。」
沈黙が流れた。ちょっと心配になるぐらい経ってから、マルーがようやく口を開いた。
「それって、ボクと結婚したくないってこと・・・?」
不安に揺れる瞳に、言い方がまずかったと気付いた。
「ちげぇよ!!そんなことは絶対ねぇからな!!俺が結婚したいのはマルーだけだから!!」
俺の勢いに驚いたのか、マルーが眼を丸くした。それから、花が咲いたような笑顔を覗かせた。
「ありがと。なんか嬉しいな。」
落ち着いて考えると、結構すごいことを言ったかも・・・。
頬が熱くなったまま考え込んでしまった俺を、マルーが現実に戻した。
「それで、さっきの言葉はどういうことなの?」
「あぁ・・・」
マルーをちらりと見てから、俺は視線を逸らし自分の足元を見つめた。
「俺は永遠なんて、信じられねぇよ。
 ガキの頃、穏やかな生活がずっと、それこそ永遠に続くと思ってた。
 でも、あっけなくそれは壊れちまった・・・。
 永遠なんて信じても、虚しいだけじゃないか?」
「・・・若って、意外なところで真面目だよね。」
「はぁ〜?」
見当違いの答えに、俺はあきれてマルーの方を向き、俺を見つめる優しい眼差しにハッとした。
「本当は、虚しいとか、そういうことじゃないんじゃないかな。
 永遠を誓って、それを守れない事が怖いんじゃないの?」
マルーの言葉がゆっくりと心に降りてくる。
図星だった。自分でも気が付かなかった本音。
人の命とは、なんて儚いんだろう。
そんな悔しい思いを、俺は何度もしてきた。今までの人生の中で数え切れねぇくらい。
その度に、永遠なんてないんだと思い知らされた。
だから、永遠を誓って、それを守れない事が怖かった。守られない事が怖かった。
「人の命って、限りあるものだよね。だから、永遠なんて無理なのかもしれない。」
マルーは俺から視線をはずし、真っ直ぐに前を向いた。
凛とした横顔にドキリとする。
「でも、だからこそ、ボクは永遠を信じたいな。」
俺を真正面から見据えて言い切ったマルーに、ある種の尊敬をおぼえた。
俺と同じ体験をしているのに、それでも永遠を信じられるマルーの強さが羨ましかった。
「ねぇ、若。ボクを信じられる?」
「当然だろ!」
唐突な言葉を不思議に思いながら、俺は即答した。
マルーを信じられねぇなら、この世界に信じられるヤツなんて一人もいねぇだろう。
「だったら、それでいいんじゃないのかな?
 上手く言えないんだけど、永遠って最初からある物じゃなくて、そういう気持ちが積み重なって
 段々とそう呼ばれるようになるんだと思う。」
いつもからは想像できない、大人びた表情をマルーはしていた。
迷う時、立ち止まる時、こういう顔をしたマルーに、俺は何回救われてきたんだろう。
「だから、永遠を誓わなければと思うんじゃなくて、ボクを信じると言った今の気持ちを
 誓うだけで良いんだよ。
 そうして想いを重ねていけば、いつか若も永遠を信じられる日が来るんじゃないかな?」
・・・大教母ってのも、伊達じゃねぇよな。
皮肉じゃなくて、素直にそう思った。
こんな短時間でここの所悩んでた問題を、あっさり吹き飛ばしてくれた。
「若がどうしてもイヤって言うなら、言葉を変えてもらう事も出来るけど・・・」
どうする?とマルーが口に出さずに訊ねる。
「いや、大丈夫だ。明日、ちゃんと誓えるよ。」
意地を張ってるんではなく、心から言うことが出来た。
「そう?良かった。」
マルーが安心したように呟き、立ち上がって俺の方に手を差し出した。
「そろそろ戻ろっか。きっとアグネス達がカンカンになってるよ。」
突然、マルーは本当にアグネス達から逃げる為にここに来たんだろうかと、心に浮かんだ。
心配かけちまったかな。なんとなく自分が情けなく思えた。
「そうだな。」
素直にマルーの手を掴んだ。すっぽり包めるほど、小さく華奢な手。
俺はふと思いついて、勢い良く掴んでいるマルーの手を引っ張った。
当然、マルーは持ち堪える事は出来ず、バランスを崩して俺の胸の中に飛び込んだ。
「若ぁ〜!」
抗議しようとして顔を上げたマルーの頬を手で包み込み、柔かな唇を奪う。
「・・・い、いきなり何するのさ!」
「急にキスしたくなった。」
「なっ・・・」
マルーが真っ赤になって、口をパクパクさせた。
さっき見せた大人びた表情は消え失せ、妙に子供っぽく見えて、俺はそのギャップがおかしくて
笑った。
「若のバカ!ふざけないでよ!!」
マルーが赤い顔のまま立ち上がり、一人でさっさと歩いていった。
「ふざけてねぇって。おい、マルー!待てよ。」
離れて行く優しいオレンジ色の影を、俺は急いで追いかけた。



                              .



マルーが一歩一歩確かめるように歩いてくる。
近付いてくるにつれ、付き添っている爺の眼が赤くなっているのに気付いた。
式が終わるまで持てば良いけど、無理だろうな。大泣きしそうだよな。
そんなことを思っているうちに、二人が俺の目の前に止まった。
爺からマルーを受け取る前に、もう一度マルーをしっかり眺めた。
「綺麗だな・・・」
ん?俺は今、何を口走った!?くそ〜、本人には言わねぇつもりだったのに!!
ポロリと零れてしまった本音に赤くなりながら、俺はマルーの手を取り正面の神父に向かった。
そっとマルーの様子を窺うと、ヴェールの下の顔が頬を赤く染めながら嬉しそうに笑っていた。
この顔を見れたから、言って良かったのかもな。
うん、そう思う事に決めた!でねぇと、恥ずかしすぎる!!
一人で勝手に結論付けて、俺は話し始めた神父に注意を向けた。


バルトロメイ・ファティマ、汝は病める時も健やかなる時も、マルグレーテ・ファティマを妻とし、
永遠に変わらぬ愛を誓いますか?
はい、誓います     .


<了>




妄想大爆発!って感じですね(笑)男版マリッジ・ブルー(笑)といったところでしょうか。
バルトの一人称は書いてて、とっても楽しいです(笑)
結婚式のシーンでは色んなキャラを出そうと思ったんですが、これだけになってしまいました(^^;



Novels
Home