For myself


遠くから近付いてくる足音と話し声が聞こえ、マルーは閉じていた眼を開けた。
ベッドの上に起き上がり、傍らに控えていたアグネスと緊張を含んだ視線を交わす。
部屋の中にいる他の面々も、それぞれに緊張した様子を見せる。
シャーカーンとの戦いに向かったバルト達は、無事に帰ってきたのだろうか?
皆がいるニサンの民家の中は静まり返り、外からの音だけが響いた。
その時、大きくドアを開ける音がピンと張り詰めた空気を破った。
眩しい光と共に、長身の人影が入ってきた。
一瞬、マルーは眼を細めた。それから、帰ってきた従兄の無事を一生懸命に確認する。
彼がどこにも怪我をしてない事に安堵し、マルーはようやく笑みを浮かべた。
「若、お帰りなさい!」
結果がどうだったかは聞く必要はなかった。
バルトが無事に帰ってきたのだ。それだけで嬉しかったし、彼がなんの成果も得ずに
帰ってくるはずがないことも分かっていた。
「ただいま。全部、終わったぜ。」
マルーの顔を見て心が和むのを感じながら、バルトも軽く笑った。
「うん。・・・ありがとう。」
色んな言葉が頭の中を巡ったけれど、マルーは結局簡単なお礼の言葉だけを口にした。
バルトは念願を叶えた訳だが、おめでとうなんてとても言えなかった。
それを言うには、今までの犠牲が余りにも大きすぎた。
だから、マルーはただ微笑んだ。今までのバルトを労わるように。
バルトもそれを感じとって、口元の笑みを深くした。
二人が笑顔を交わしている間に、バルトと共に戦ってきた仲間達も部屋の中に入ってきた。
マルーはバルトから視線をはずし、彼の後ろに笑顔を向けた。
「みんなもお帰りなさい!」
その声を皮切りに、部屋の中を『お帰り』と『ただいま』が飛び交う。
それが一段落したら、今度は報告会が始まった。
いつもは誰よりも喋るバルトだったが、今回は言葉少なだった。
マルーもみんなの話に静かに頷いていた。
概ね穏やかだった場は、フェイがこう話した時だけは賑やかになった。
「そういえば、バルトがシャーカーンに言った言葉には感心したな。
 自分のことはなんにも言わないで、マル・・・んぐっ!!」
「フェイ、余計なことは言うな!!!」
感心した口調の中にも、少しからかう響きを持ったフェイの言葉に、バルトは慌てて親友の口を
塞いだ。
その慌て振りに、マルーは興味深々と書いてあるような顔で従兄を覗き込んだ。
「若、なんて言ったの?」
「なんでもねぇよ。マルーが気にするようなことじゃねぇって。」
「マルーも聞きたいよな。なかなかカッコ良かったぜ。」
バルトの手から逃れたフェイが口を挟んだ。
「あっ、お前、なんにも言うなって!!!」
バルトに本気になって抑え込まれ、フェイはとうとうギブアップした。
マルーはその様子にこの場は引き下がることにしたが、後で絶対にフェイから聞き出してやろうと
心に決めた。
話の区切りに、今まで黙っていたアグネスが口を開いた。
「バルト様、これから早速アヴェの方に向かわれるのですか?」
「それなんだけど、ニサンにもう一晩停泊していこうと思ってる。
今から向かっても、アヴェに着くのは真夜中になっちまうし。」
「そうでございますか。でしたら、何かご馳走を用意させますわ。」
「いや、それよりも頼みたいことがある。」
いきなり硬い表情を見せたバルトに、アグネスは訝しげな視線を向けた。
「なんでございますか?」
「ユグドラに行って、マルーの荷物を取ってきてくれるか?
 明日は朝早くに出るから、そんな暇はねぇと思うし。」
「どうして!?」
アグネスが言葉を発するより先に、マルーの声が部屋に響いた。
部屋にいる他の者達も、驚きの視線をバルトに向けた。
「どうしてって、お前は怪我してるから荷物なんて持てねぇだろうが。」
「そういう意味じゃないよ!ボクにユグドラを降りろって言うの?」
「当然だろ。」
「イヤだよ!!ボクはユグドラを降りないから!!」
興奮してどんどん声が大きくなるマルーとは対照的に、バルトは冷静な表情のままだった。
その紺碧の隻眼からは、何も読み取る事は出来ない。
「なに分かんねぇこと言ってんだよ。シャーカーンの脅威はもう無くなった。
 お前がユグドラにいなきゃならねぇ理由は、どこにもねぇんだよ。」
「そ、それはそうだけど・・・。でも、やっぱりヤダよ!一緒に行く!!」
「・・・はっきり言わないと分かんねぇのか?」
バルトが低く、重い声を出した。
「お前がいても、迷惑なんだよ。邪魔だ。」
「若!なんて事をおっしゃるんですか!」
黙って二人のやり取りを見ていたシグルドが、バルトを咎めるように声を上げた。
言われた当の本人のマルーは、体を起こしているベッドのシーツを握り締めながら俯いていた。
その顔色が悪いように見えるのは、怪我をしている為だけじゃないだろう。
「本当の事だろうが。マルーがいても、足手まといなだけだ。」
「若!!」
シグルドの鋭い声も聞こえないかのように、バルトはアグネスに向かった。
「そういう訳だから、よろしく頼むな。」
バルトはみんなの視線を一斉に浴びながら、ドアの方に向かい振りかえった。
「これからのことを相談したいから、手の空いてる奴は集会所の方に来てくれ。」
何事もなかったようにそう告げるとバルトは出て行った。
「若、お待ち下さい!!」
シグルドがマルーの様子を気にしながらも、バルトを追いかけた。
残りの面々がどうしたものかと顔を見合わせる。
部屋の中を重い沈黙が流れた。
マルーも俯いたままそれを感じ、自分が何か言わなくてはと思ったが、凍りついたように
動けなかった。
と、部屋の空気が動いたのが分かり、マルーは顔を上げた。
人払いでもしたのか、部屋の中にはアグネスの他に誰もいなかった。
「お茶でも淹れましょうか。」
マルーが返事をしない間に、アグネスがパタパタと動き回って手早くお茶の準備をした。
やがて、マルーの前に暖かな湯気をあげるカップが差し出された。
握り締めていた拳をようやく緩め、マルーはのろのろとカップを受け取った。
カップを手のひらで包むと、暖かな感触に固まっていた身体がほぐれた気がした。
自然に溜め息がマルーの口をついて出た。
マルーの緊張が解けたのを確認し、アグネスもカップを持ってベッドの脇にある椅子に座った。
「・・・若に嫌われちゃったかな?今回もいっぱい迷惑かけちゃったし。」
ポツリとマルーが今にも消え入りそうな声を出した。
「マルー様!」
厳しい声にマルーは思わずアグネスの方を向き、彼女の優しい表情に気付いた。
「そんなことはないと、マルー様が一番よく分かってるはずでしょう?」
「うん・・・。そうだね。ごめん、分かってるつもりなんだけど・・・」
それでも、さっきの言葉は痛かった。心がヒリヒリしている。
マルーはまた大きく息を吐き、落ち込んでいる自分を吹っ切ろうとした。
「まったく、若も言い方がきついよね。」
わざと明るい声を出すマルーに、アグネスが軽く首を振った。
「それだけ、マルー様の事が心配なんですよ。」
「・・・・・・」
諭すようなアグネスに、マルーは素直に頷く事が出来なかった。
「良い事を教えて差し上げましょうか?」
暗い表情が消えないマルーに、アグネスが茶目っ気たっぷりに言った。
「碧玉要塞から帰ってこられた時、バルト様がマルー様を抱いてらして。
 あんなに慌てて取り乱していらっしゃるバルト様を見たのは、初めてでしたわ。」
アグネス自身も普段の彼女らしくなく相当取り乱していたのだが、その事は口には出さなかった。
シャーカーンとの戦闘が終わった後、マルーは一度意識を取り戻したのだが、
酷い出血の為か再び意識を失った。
その次に目を覚ました時は今いるベッドの上で、その間の事を知らないマルーには、
アグネスの話は興味深かった。真剣に耳を傾ける。
「それで、バルト様に担架を用意しますと言ったのですが、それをきっぱり断って、
 ここまでマルー様をずっと抱えて来られたんです。まるで大切な宝物を抱えているかのように・・・。
 その後も、マルー様の枕元にずっと付いてらしたんですよ。」
マルーは気が付いた時、一番に視界に入った従兄の顔を思い出した。
不安で一杯で、どことなく苦しそうな表情をしたバルト。
いつも元気な彼がそんな顔をしているのが辛くて、マルーは精一杯微笑んでみせた。
その後、彼の顔が泣きそうにゆがんだのは、気のせいだったのだろうか?
「・・・話してくれて、ありがとう。」
アグネスの話は傷ついた心にゆっくりとしみ込んでいき、優しく癒してくれた。
軽く笑顔もみせたマルーに、アグネスも安堵の息を漏らした。
「それで、マルー様。これからどうなさいますか?」
アグネスが表情を改めた。
「シャーカーンはいなくなった訳ですし、マルー様がしばらくの間ニサンを離れても問題ありませんわ。
 政治的な問題でゴタゴタすると思われますから、マルー様の出る幕はないでしょうし。」
「でも、若が・・・」
「バルト様の事ではなく、マルー様の事でしょう?マルー様ご自身はどうされたいのですか?」
少し厳しい声音で遮ったアグネスに、マルーは大きく目を見張った。
それから、目を伏せてじっくりと考える。
「アグネス、若の所に連れて行ってくれる?」
やがて強い意志の力を秘めた瞳を上げたマルーに、アグネスは満足そうに頷いた。


ドアの開いた音に、シグルド達と話していたバルトが振り返った。
「マルー!?何やってんだ!!」
集会所のドアの所には、アグネスに肩を支えられてマルーが立っていた。
「おい、アグネス!どういうつもりだ?」
「そんなことより、そこの椅子を持ってきて下さいますか?」
その言葉に弾かれたようにシグルドが動き、慌てて椅子を持ってきた。
ゆっくりとした動作でマルーが椅子に腰掛ける。心なしか、息が荒いようだ。
「安静にしてなきゃダメだろう!悪化したら、どうするんだ!」
声を大きくするバルトに、アグネスが落ち着いた声を出した。
「マルー様がバルト様にお話があるそうです。だから、お連れしたんですわ。」
「だったら、俺を呼べばいいだろう!」
「そうしたら、バルト様は来て下さいましたか?」
静かに指摘するアグネスに、バルトは詰まった。
マルーにはもう会わずに行くつもりだった。会えば、決心が揺らいでしまうから。
黙ったまま言葉を発しないバルトを尻目に、アグネスが集会所にいた面々に向かった。
「申し訳ありませんが、しばらく席を外して頂いてもよろしいでしょうか?
 大聖堂の方で、お茶を用意させますので。」
その言葉に顔を見合わせてから、集まっていた者達はぞろぞろと外に出て行った。
「それでは、バルト様。マルー様に無理をさせないで下さいね。」
「アグネス!!」
「あんな事を言われて、はい、そうですかと納得する人はいません。
 ちゃんと言葉を尽くして話さなければ、説得する事は出来ませんわ。」
アグネスがそう言い置いて、最後まで残っていたシグルドと共に集会所を出て行った。
二人だけになった部屋に沈黙が訪れた。
少々の勇気を出して、マルーは口を開いた。
「ボクはユグドラを降りないよ。若達に付いて行く。」
「ダメだ!」
「イヤ!」
お互いに強い視線を見交わす。と、バルトの視線が揺れた。
「どうして付いて来たいんだ?また、俺の為とか言うのか!?」
バルトの脳裏に、碧玉要塞での事が蘇る。
怪我をしているのに、バルトの為に出来るのはこれくらいしかないと言ったマルー。
あの時のやり切れない気持ちは、今もこの胸に渦巻いている。
「だったら、もう充分だ・・・。充分なんだよ!!あんな思いをするのは、もうたくさんだ!!」
今までの冷静さの仮面は消え去り、バルトは激しい口調で吐き捨てた。
何があっても、マルーだけは守りきれると思っていた。
今にしてみれば、なんて傲慢な思い込みだったのだろう。
実際はマルー一人も守れず、大怪我をさせてしまった。
本当はこの手でずっと守っていたかった。
でも、自分の不甲斐なさを実感した今、安全になったこの場所に残していくのが一番だと思った。
バルトは皮膚を破りそうな勢いで手を固く握り締めた。
「・・・若の為じゃない。ボクは自分自身の為に一緒に行きたいんだ。」
静かな声が耳に入り、バルトはいつの間にか俯いていた顔を上げた。
「自分に何が出来るかを考えたんだ。ニサンにいても、ボクはただ祈る事しか出来ない。
 でも、ユグドラにいれば、祈る以外にもっと出来る事があると思うんだ。
 少しなら、回復のエーテルだって使えるしね。」
断固たる決意を込めた蒼い双眸を、バルトは見つめる事しか出来なかった。
「何よりニサンにいるよりも、ユグドラにいる方がボクがボクらしくあれると思うから・・・。
 だから、ボクは一緒に行くよ。若の言う事なんて聞かない。これはボク自身の問題だから。」
何物にも揺るがない想いを、マルーは真正面からバルトにぶつけた。
マルーの真摯な表情に、バルトは何を言っても無駄だと悟った。でも、素直に頷けない。
「・・・また、怪我をするかもしれない。
 今回はたまたま運が良かったんだ。ひょっとしたら、死んじまってたかもしれねぇんだぞ!
 そんな危険がある所に、お前を連れてけねぇ!」
「大丈夫だよ。」
根拠のない事を気楽に言うマルーに、バルトは苛立ちの声を上げた。
「そんな保証がどこにあるって言うんだ!」
「あるよ。ここにちゃんと。」
思いがけない言葉にバルトは動きを止めた。
「こんな事を言うのは悔しいんだけど、若がいつでも助けてくれるから・・・。
 若がいるから、大丈夫だよ。」
「何言ってんだよ。俺はいつも手遅れになってからじゃなきゃ・・・」
語尾が宙に消えた。
いつもいつも、マルーが無茶をした後になってからでないと、助ける事は出来なかった。
マルーがシャーカーンに捕まった時も、碧玉要塞でも。
もっと自分がしっかりしていれば、マルーが無茶をする事は無かったのに。
悔しげに唇を噛み締めるバルトに、マルーは不思議そうな顔を向けた。
「どうしてそんな事言うの?若が手遅れだって言うなら、ボクは今ここにはいないよ。
 どんな時だって若が助けてくれるから、ボクは安心して頑張れるのに。」
頭をガツンと殴られたような気分だった。
マルーの瞳に嘘はなかった。ということは、本心からそう思っているという事だ。
お前はそう思ってくれてるんだな・・・。
俺はちゃんと間に合っていたのか?
お前を助ける事が出来たと、少しは自信を持ってもいいのか?
迷いを浮かべるバルトに、マルーは全てを包み込むような笑みを浮かべた。
それで、バルトは心を決めた。
もう一度だけ、自分を信じてみよう。
「・・・明日の朝は早いぞ。寝坊したら、置いてくからな。」
「それって!?」
期待に満ちた眼差しを向けるマルーに、バルトは苦笑した。
「ユグドラを降りなくてもいいって事だよ。」
「やった〜・・・・・いたっ!」
歓声をあげて思わず立ち上がろうとしたマルーが、足の傷の痛みに崩れ落ちそうになった。
バルトが慌てて小柄な従妹を支える。
「バカ野郎!怪我人はじっとしてろ!」
マルーを椅子に座り直させ、バルトはそのまま椅子ごとマルーを抱き締めた。
「・・・頼むから、もう無茶はしないでくれよ。」
耳元にかかるバルトの息をくすぐったく感じながら、マルーもそっとバルトの背に手を回した。
「うん。もう無茶はしないよ。」
「・・・半分に聞いとく。」
離れたバルトに言い返そうとして彼を見つめたマルーの口から、なぜか笑い声が零れた。
バルトも何か吹っ切ったような顔で笑っている。
「大聖堂の方に行くか。」
「うん!」


翌日の夜明け前、ユグドラシルで旅立つ一行を見送りに、アグネスはニサン郊外に来ていた。
まだ早い時間なので、他に見送りに来ている者はいない。
出発するばかりになったユグドラシルの甲板の上で、マルーが手を振っていた。
その時、マルーの横にいたバルトがユグドラシルから飛び降り、アグネスの方に走ってきた。
「どうされました?」
息を切らしているバルトに、アグネスは驚いた表情を向けた。
「あんたに・・・謝るのを・・忘れ、てた。」
大きく息を吸って、バルトが呼吸を整えた。
「謝る?何をですか?」
「俺がついていながら、マルーに怪我をさせちまった事だ。あんたに頼まれてたのに・・・」
家族のように心配してくれるアグネスだからこそ、バルトは謝っておきたかった。
「本当にすま・・・」
「その事はもういいんです。」
バルトの言葉をアグネスが遮った。
「あの時は、気が動転してバルト様を責めるような事を言ってしまいましたけど・・・。」
バルト達が碧玉要塞から帰って来た時、アグネスは怪我をしたマルーを見て、
動揺の余り、バルトを激しく責めた。
「後でマルー様に詳しく話を聞いた時に言われました。
 ボクが無茶をしたのが悪いんであって、若は悪くないよと。」
「でも、やっぱり俺の力不足が原因だから・・・」
アグネスが自分を責めても当然だと思う。
いつになく殊勝な顔をしているバルトに、アグネスが何か含みを持った視線を向けた。
「では、一つだけお約束して頂いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
訝しげな顔をするバルトに、アグネスは茶目っ気いっぱいの笑みを浮かべた。
「もし、マルー様に怪我の痕が残るようなことになったら、バルト様が責任をとって下さいね。」
「な、何言って・・・」
真っ赤になって絶句したバルトに、アグネスがクスクスと笑い声を上げた。
「若、・・ろそろ・・・出発す・・・・やく戻って・・・」
甲板の上からマルーがバルトを呼ぶ声が、風に乗って微かに聞こえた。
「じゃ、戻るよ。」
どことなく逃げ腰になっているバルトに一瞬おかしそうな顔をしてから、アグネスが表情を正した。
「マルー様のこと、改めてよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げるアグネスに、バルトも真剣な顔つきをした。
「あぁ、分かってる。」
これにはしっかりと返事を返し、バルトはユグドラシルに戻って行った。
バルトがユグドラシルの中に消えてすぐ、ユグドラシルはその巨体を震わせながら、
大空に飛び立って行った。
ユグドラシルが巻き起こした風に吹かれながら、一人残されたアグネスは考えていた。
先ほど、一方的に告げた約束。バルトは肯定しなかったが、否定した訳でもなかった。
(お二人が結ばれる日も、近いかもしれませんわね・・・)
ユグドラシルの艦影を見送るアグネスの眼に、朝日が昇ってくるのが映った。


「ねぇ、アグネスと何を話してたの?」
甲板上に戻ってきたバルトに、マルーが素朴な疑問をぶつけた。
「た、たいした事は話してねぇよ。」
「ふう〜ん。」
少し動揺の残るバルトにマルーが疑いの眼差しを向けた時、辺り一面に光が満ちた。
「うわぁ、凄く綺麗だね。」
マルーが昇ってきたばかりの朝日に歓声を上げた。
マルーは朝日に気を取られてそれ以上追求する事はなく、バルトはホッと胸を撫で下ろした。
「朝日を見てると、元気になるよね。まるでパワーを分けて貰ってるみたい。」
マルーが朝日の方を向いたまま、誰に聞かせるでもなく呟いた。
光を浴びるマルーの横顔を、バルトはそっと眺めた。
敬虔な気持ちさえ起こすその横顔にドキリとした。
ふいに、さっきアグネスに一方的に言われた約束が蘇った。
「・・・それもいいかもな。」
「え?何か言った?」
バルトの言葉は風に流され、マルーの耳には届かなかった。
「なんでもねぇよ。」
バルトの口元に自然と優しい笑みが浮かんでいた。
不思議に思いながら、マルーも笑顔を返した。
そのまま二人は黙って、新しい何かが始まる予感を告げる朝日を、ずっと眺めていたのだった。


<了>




ある歌のサビから思いついた話です。面影は全然ありませんが(笑)
マルーはバルトの為に行動してることが多いけど、やっぱり自分の為が一番であって欲しいので。
それにしても、バルトとマルー以外の扱いがぞんざいですね(苦笑)
一言でまとめられてしまっているという・・・。
あ、アグネスは例外(笑)自分でかなり気に入っています。



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