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アイツまで引っ張り出してやって来た娘の幼なじみのクソ生意気な顔を見た瞬間、過ぎった予感に溜め息が出た。 とうとうこの時がやって来ちまったか |
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自宅の居間にて。 毛利小五郎は非常に気まずい思いをしていた。 居間に置かれたテーブルの向こうには娘とその幼なじみ兼恋人が妙にかしこまって座っている。 そして、何故か隣にいるのは別居中のはずの妻。 小五郎はこの気まずさをごまかそうと煙草に手を伸ばしたけれど、隣からの冷たい視線を感じて手を引っ込めた。 溜め息が零れそうな唇を無理に引き締めて、渋々と向かいの新一へと視線を向けてこれまでと同じ押し問答を 繰り返す。 「とにかくオレは反対だ。絶対に認めねぇぞ。」 いい加減諦めてくれと新一を睨め付けるが、対する新一は気力が萎える様子もなかった。 「そんな事は言わずに、どうかお願いします!お義父さん!」 「だ〜からっ!オレに息子はいねぇってさっきから言ってるだろうが!!」 何度言っても言い直す気が微塵もないらしい新一に、小五郎の頭にこれは嫌がらせだろうかと浮かぶ。 うん、きっとそうに違いねぇ。 本気で義理とは言え父親だなんて思われてるのなら、気味が悪すぎる!! そんなしょーもない事を考えていた小五郎に、新一の隣に座っている蘭が憂い顔を向ける。 「お父さん、わたしからもお願い。新一との結婚を許して。」 あまり我が侭を言わない良くできた娘の最大の我が侭が、この探偵ボウズとの結婚だと言うのだから 小五郎としてはやりきれない。 他の望みだったらどんな事でも叶えてやると言うのに。 ちなみに、蘭のもう1つの願い 「あのなぁ、さんざんコイツに泣かされてきただろ。それでも新一と結婚したいのか?」 小さい頃、探検ごっこに出かけて怖い目にあったのを皮切りに、蘭の涙は新一絡みが1番多かったと 小五郎は思う。 極めつけは高校生の時の新一失踪事件だ。 それなりの理由があったのは今では分かっているけれど、蘭に寂しい思いをさせてたのはやっぱり許せねぇ。 そういう時こそ甲斐性をみせろってんだ。 自分に心配をかけねぇようにと、影で泣いてた蘭の姿は今でも鮮明に残っている。 そして、戻ってきてからも事件事件で、蘭が寂しそうにしている姿を見かけるのは1度や2度のことじゃなかった。 小五郎としてはなんで新一が良いのかおおいに疑問だったりするのに。 「うん、新一じゃなきゃダメなの。」 きっぱりと蘭は言い放つのだから納得できない。 澄ました顔をしながらも蘭の言葉に口元を緩めている新一をバッチリと視界の端に捕らえて、小五郎のヘソは 更に曲がる。 「やっぱりダメだ。許可できねぇ!」 「まったくいい加減にしたら?許可してあげなさいよ。」 今度は隣から呆れたような声が入って、小五郎は英理へとジト目を向けた。 そう、小五郎が気に入らない理由のもう1つが英理の態度。 この事では共同戦線を張って反対してくれると思っていたのに、ここに来た時から英理は新一の肩をもつ事しか 言わなかった。 小五郎の所に話に来る前に、新一は先に英理の方へ話をつけに行ったのだろう。 そんなトコロも小五郎は気にくわなかった。 「お前、前に幼なじみで探偵やってるような奴とは結婚しねぇ方が良いとか言ってなかったか?」 「そんな事も言ったかしらねぇ。」 首を傾げてごまかす英理に小五郎は更に絡む。 「確かに言った!オレの記憶に間違いはねぇ!なのに、なんで賛成するんだよっ!?」 「新一君にはきちんと誓約書を書いてもらったから。これを破ったらどうなるか、分かってるわよね?」 「もちろんです。」 英理がちらりと新一に視線を向けると、新一は躊躇いもなく大きく頷いた。 「という訳よ。」 今度は小五郎の方へと向き直りながら、さらりと告げた英理は鮮やかに笑う。 その顔は確かに綺麗だったけれどそこはかとなく迫力が感じられて、どんな誓約をさせられたのかと ふと考えてしまった小五郎はちょっぴり新一に同情しそうになって慌てて頭を振った。 そんな小五郎に軽く肩をすくめながら、英理が何でもない事のように言う。 「あなたもさっさと観念したら?」 「ふんっ!オレは絶対賛成しねぇからな。」 「子供っぽい意地を張るのは止めなさいよ。」 「誰が子供っぽいだと!?」 「ア・ナ・タよ、あなた。そういうところは昔から変わらないんだから。」 「大きなお世話だっ!」 「大体、昔からあなたは・・・。」 目の前で口喧嘩を始めてしまった両親を見て、蘭の表情がみるみるうちに曇っていく。 この2人には早く仲直りして欲しいのに、顔を合わせれば喧嘩ばかりで。 蘭が俯いて握り締めた手を見つめていたら、横から伸びてきた大きな手がそっと華奢な手に触れた。 あやすようにポンポンとしてから、蘭の握り締めていた手を解いて指を絡めてくる。 そのぬくもりに気が緩んだ蘭がそっと隣に視線を送ると、新一が大丈夫だというように唇の端を上げて 笑ってみせた。 蘭が嬉しそうな表情でうん!と頷くのを確認してから、新一は未だに口喧嘩を続けている小五郎と英理の間に 割って入った。 「あの、すみません!今はお2人の痴話喧嘩を聞いてる場合ではないんですけど。」 「「新一(君)〜っ!」」 お互いから視線を外してバッと新一の方を見た2人に、息がピッタリだな〜と新一は心の中でだけ呟いて、 小五郎へと真剣な眼差しを向ける。 「確かに今まで蘭、さんを泣かせるような事をしてしまいましたが、これからは寂しい思いなんてさせません!」 蘭と言いかけてジロリと小五郎に睨まれて、新一は慌てずに言い直した。 「蘭さんは絶対に幸せにします。どうか結婚を許して下さい!」 真摯な表情で深く下げられた新一の頭を見ながら、小五郎が腕を組んで低く唸る。 「・・・ダメだ。」 「あなた!」 横に座る英理が非難の声を上げる。 正面の蘭の顔にも悲しそうな表情が浮かんだのを見て、英理が溜め息混じりに告げる。 「もういいわ。こんな分からず屋は無視して、さっさと結婚してしまいなさい。 私が証人になるから。」 「いえ、それでは意味がないんです。」 顔を上げた新一が英理へと首を振る。 「お義父さんにも認めて頂かないと、蘭さんとは結婚できません。 ですから、お義父さん。お願いします。」 再度、頭を下げた新一に、なんでそんなにこだわるんだと小五郎は疑問に思った。 その答えはちょっと考えただけで分かった。 きっとみんなから祝福される結婚をしたいのだろう。 小五郎ははぁっと息を吐き出した。 不本意ながら、新一の気持ちはよく分かった。 こういう形式ごとが嫌いな小五郎ですら新一と同じような気持ちで、気まずい思いをすると分かっていながらも 英理の両親に挨拶に行ったのだから。 「・・・分かった。」 「お父さん!」 喜びの声を上げようとした蘭を片手を上げて制して、小五郎は新一へと憮然とした表情で言う。 「但し、1つだけ条件がある。」 「何ですか?」 「オレと柔道で勝負しろ。それで勝てたら結婚は許してやる。」 素直に認めるのは癪だから何かないかと考えた小五郎は、新一に勝てそうな柔道を挙げた。 畳の上へと新一を叩きのめして、その無様な姿を見て娘が考え直してくれないだろうかと、 万に一つもなさそうな可能性に賭けて。 ・・・しょーもない悪あがきである。 「そんなの無理よ。」 新一が答える前に、蘭が小五郎へと抗議する。 試合では勝てなかったけれど、小五郎は大学時代の柔道部では1番の腕前だったのだ。 その腕は今でもそんなに落ちていない。 いくら新一がスポーツ万能だからといっても、小五郎に勝つのは無理なように思えた。 「蘭、いいから。」 「でも!」 更に言い募ろうとした蘭を安心させるように片目を瞑ってみせて、新一は小五郎へと確認をとる。 「お義父さんに柔道で勝てば良いんですね?」 「おう、勝てるもんならな。」 「1回勝つだけで良いんですよね?」 「くどいぞ。何度も言うな。」 小五郎がフンと鼻をならしているのを横目に、新一は心配そうにこちらを見ている蘭の方へ向き直った。 「蘭、大丈夫だよ。勝てばいいんだから。」 「でも、お父さんの腕前、新一も知ってるでしょ?」 「あぁ。でも、回数制限はねーみてーだから、100回もやれば1回ぐれーは勝てるさ。」 「なにぃ〜。」 がく〜んと頤を落としそうになっている小五郎を見ながら、英理が楽しそうにクスクス笑いを漏らす。 「確かに回数制限はついてないわね。私が証人になるわよ。」 「ありがとうございます。」 「それより、頑張りなさいよ。」 「新一、頑張ってね!」 「あぁ!」 3人で盛り上がっている新一達を横目に、1人蚊帳の外に置かれた小五郎は盛大にそっぽを向いたのだった。 1ヵ月後、警視庁捜査1課の面々の協力も得て柔道の特訓を積んだ新一は、 初戦で見事小五郎に勝利する事になる。 やけにあっさりと勝ててしまった事を新一は疑問に思ったけれど。 きっと小五郎の親心に違いないと納得して、おっちゃんも良いトコあるじゃねーかと小五郎を見直した。 けれども、本当は。 その前の晩、恋人の所へ激励に行ってしまった娘の代わりに、何故かやって来た別居中の妻の手料理を 残さず平らげて、試合の時には体調が激悪で普段の力を出せなかった、なんて。 名探偵も知らない真実は、近い将来の花嫁の父だけが知っている。 <了> |
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+++++++++++++++++++++++++++++++++ 快斗と違って新一は結婚を許してもらうのに苦労しそうだな〜と考えていたら、 新一と小五郎の柔道対決が浮かんできました(笑) 私としてはオチが結構気に入っています(笑) 英理さんを出せたのは良かったんですが、蘭ちゃんの活躍の場がなくて残念。 まぁ、この話のメインは小五郎(と新一)なのでしょうがないかな〜。 蘭ちゃんのリベンジは次の話で!(いつになるか分からないけど・・・) 余談ですが、新一って案外柔道着も似合うと思いませんか?(笑) +++++++++++++++++++++++++++++++++ |
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「お父さん、ありがとう。」 新一との結婚を賭けた柔道の試合が行われた夜、家に戻ってきてから蘭は小五郎へとお礼を言った。 「何の事だ?」 読んでいる新聞から顔を上げずに、小五郎はとぼけてみせた。 「あのね、新一がこんなにあっさり勝てたのはおかしいって言ってたの。 お父さんがわざと負けてくれたんじゃないかって。」 「フン。」 小五郎は蘭の勘違いを肯定も否定もしなかった。 本当の事を言えば、小五郎としては1回新一を投げ飛ばして父親の威厳というのを見せてから、 結婚の許可をしようと思っていたのだ。 ・・・シナリオは見事に狂ってしまったが。 でも、試合後に「あなたのこと、見直したわ。」と見に来ていた英理にも言われ、なんとなく良い感じになったり なんかもしたし、真実は胸の奥底にしまっておく事にする。 どっちにしろ、新一にも小五郎を見直さす事が出来たらしかったし。 「・・・アイツに愛想が尽きたら、いつでも帰って来い。」 「お父さんったら。・・・でも、ありがとう。」 後ろを向いてしまった小五郎の背中へ、蘭は心からの気持ちを告げた。 |
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