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ホントのコトを言うとね、一目惚れだったんだ。 お父さんに連れて行かれたちょっぴり怪しげなお店で。 部屋の1番奥に半分隠されるように座っていた彼を見た瞬間、何故か知らないけどピンと来た。 喋れないからなのか、自己紹介の代わりなのか、ポンっ☆と音をたてて差し出された赤いバラ。 この にっこりと笑っているのにしょうがないと諦めた。 速攻で家に持ち帰って一生懸命お世話をしたのよ? 仕事で忙しいお父さんがいなくて1人で過ごす時間は寂しかったけど、彼が青子の家にやって来て からはそんなコトはなくなって。 青子を笑顔にしてくれる彼のマジックはホントに夢のようで。 この素敵な時間が壊れないように、お店のお兄さんに言われたことはちゃんと守った。 ・・・それなのに、なのにっ! どーしてこんな風に育っちゃったの!? |
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「こらっ!ちゃんとミルク飲んでよ〜!」 湯気をあげるティー・カップをずいっと差し出す困り顔の青子に、対する快斗は楽しそうに返す。 「だから、何度も言ってんじゃん。青子が口移ししてくんなきゃ飲まねーって。」 「バ、バ快斗!!そんなコトできるワケないじゃないっ!!」 「とか言いつつ、結局いつもしてくれるのは誰だっけ?」 にっと唇の端を上げて覗き込んでくる快斗を、青子は顔の色を変えないようにと頑張りながら睨む。 もっとも快斗ほどポーカーフェイスが上手くない青子の頬が、微かに桜色に染まっているのを 快斗の目はしっかりと捕らえていた。 意地の悪い笑みを浮かべた快斗に青子の視線は更にきつくなるけれど、あどけない顔立ちの 青子ではやっぱり迫力はない。 「そ、それは快斗が悪いんでしょ!!そうしないと食事してくれないんだもん!」 「だって、そっちのがうめーんだから、しょーがねーじゃん? やっぱり食事はうめー方が良いし。」 「そんなワケないでしょ!」 どんな風に飲んだってミルクはミルク、変わりがある訳ないと主張する青子に動じもせず。 「それがあるんだな。ってことで、オレは口移しじゃなきゃ食事しねーから。」 しれっと言い放つ快斗に、今回も敗戦の色が濃くなった青子は頭を抱えた。 この言い争いは快斗が話せるようになってから、食事の時間がくる度に飽きもせず 繰り返されていた。 今のところ、青子の全戦全敗。 もう快斗なんて放っておきたいと頭の隅に浮かんだりもするけれど、そうはいかない事情が 青子にはあった。 そもそも、快斗は人間ではない。 更に言えば、生き物でもないのだ。 快斗は この不思議な人形は、話す事はできないけれども人と同じように自分の意思を持っている。 とても高価な人形で、昔は金持ちの貴族御用達だったとか、この人形を買う為に身上を潰した者が 大勢居るとかいうが、詳しい事は青子は知らない。 ただ、大企業の社長をしていて青子との時間を持つ事が出来ない父親が、1人の時でも寂しくない ように一緒に暮らせる友達をあげようと連れて行ってくれた店に、人間で言えば10歳ぐらいの 少年の姿をした快斗がいた。 色鮮やかなドレスを着ている少女達の中で、真っ白なタキシードを着ていた快斗は真っ直ぐに 青子の視界の中に飛び込んできた。 父としては本当は少女型のプランツが良かったらしかったけれど(ちなみにプランツのほとんどは 美しい少女の形をしている)、青子は快斗が一目で気に入った。 そして、それは快斗もまた同じだった。 高級なプランツになればなるほど人形自身が買われる相手を選ぶのだが、青子の場合その問題は 障害にならなかった。 何しろ快斗自身が青子がそぉっと顔を覗き込んだ時、ぱっと目を開けてにっこりと笑い、 有名マジシャンのように鮮やかな手つきで赤いバラを差し出したのだから。 生まれた時から一緒に居る姉弟のように仲良くしている青子達に、父は苦笑しながら懐から 財布を取り出した。 そして、その日から快斗は中森家の一員になった。 快斗が家にやって来てから、青子はそれはもう甲斐甲斐しく世話を焼いた。 プランツの食事は日に3回のミルクと、週に1度の砂糖菓子。 そして、1番の栄養は惜しみなく注がれる愛情。 この3つがないとプランツはあっという間に枯れてしまう。 これが青子がいつも快斗のワガママに折れている唯一で絶対の理由。 「ほら、さっさと食事させなくて良いのか? 青子はご主人様なんだからちゃんとオレの世話をしないとな。 それとも、オレが枯れちゃってもいいワケ?」 むぅっと黙り込んでしまった青子に快斗がにやりと笑う。 拒否できないと分かっていて言う快斗に青子は頭にくるが、生憎と言い返せる言葉は 見つからなかった。 快斗を枯らしてしまいたいなんて、1度も思った事なんてないから。 それでも、丸め込まれている自分が悔しくて、つい叫んでしまう。 「もう、もうっ、もうもうっ!!どーしてこんなに生意気になっちゃうのよ〜〜〜っ!!!」 家に来たばかりの頃の快斗は、例えて言うなら小さな紳士のようだった。 話す事は出来なかったけれど動作はいつでも礼儀正しく、青子が悲しい顔をしていると いつでも素敵なマジックを見せてくれた。 ちびで紳士でマジシャンで。 青子はそんな快斗を実の弟のように可愛がっていた。 お店のお兄さんに言われた事はきちんと守っていたし、この時間は永遠に続くものだと思っていた。 それがある日突然、快斗がいきなり成長してしまったのだ。 見た目は青子と並んでいても違和感がない青年の姿になり、何より驚いた事に話し出したのだ。 ちびだった頃の紳士な振る舞いが嘘だったかのような口の悪さとふてぶてしい態度に、 青子は気が遠くなる思いだった。 プランツにミルクや砂糖菓子以外のモノを食べさせると成長してしまうと聞いた事はあったが、 青子はもちろんそんな事はしていない。 慌ててプランツを売っている店に行ってそこの主人に相談してみたけれど、 段階で、どんな風に育つのか分からないと言われてしまった。 そういえば、快斗を売ってもらう時、そんな話を聞いていたと思い出した青子は、それ以上抗議も できずに家にすごすごと引き返した。 (でもね、これってサギじゃないっ!?) 毎晩寝る前、一緒のベッドにもぐり込んで快斗を抱き締めながら、『快斗が話せたら良いのになぁ。』と 言っていたのは確かに青子だ。 けれど、今までと180度まったく逆な性格に成長してしまうなんて、誰が想像するだろう? 朝目を覚まして、寝ている間も抱き締めたままのちび快斗におはようと挨拶するのが 青子の日課だったけれど、あの朝は起きたら成長していた快斗に逆に抱き締められていた。 『おはよ、青子。ようやく起きたか。』なんて声をかけられて、青子は心臓が止まりそうなほど ビックリしたのだ。 それからは大きくなった快斗のワガママぶりに青子は振り回されてばかりで。 「ホントになんでこんな風に育っちゃうのよ〜?」 今までを振り返って嘆きの声を上げている青子に、快斗がイタズラっぽく片眉を上げる。 「そりゃもちろん、青子をこうしたかったからじゃねー?」 「へ?・・・きゃっ!!」 快斗に腕を引っ張られた青子は、強引に彼の膝の上で横抱きにされてしまっていた。 「ちびのまんまじゃ、青子を抱き締める事なんてできねーからな。」 「バ、バカなコト言ってないで降ろして!!」 「やだね。」 あっさりと一言で青子の要求を退けて、快斗が意外なほど真面目な顔で青子を見つめる。 「それに、バカな事じゃねーぜ?本心だし。」 「えぇっ?」 ポンっと音が鳴るような勢いで青子の頬が真っ赤に染まる。 それを見て快斗がクスリと優しい笑みを零す。 自分の一言一言に反応して赤くなったり怒ったりする青子が、可愛くて可愛くて仕方がない。 好きだからいじめるなんてガキっぽいと自分でも思うが、つい最近まで子供だったのだから そこには目を瞑って欲しい。 「あーっ、やっぱり青子をからかってるんでしょ!?」 「そんな事ねーよ。さっきの言葉は本当。」 快斗の笑みの意味を勘違いしている青子に、クスクス笑いながら言ってみたけれど。 「ウソっ!」 彼女には盛大に否定されてしまった。 頬を膨らましてそっぽを向いてしまった青子に快斗の眼差しが優しくなる。 快斗が青子の頬をツンとつついてみると、青子が何をするのかと怒って快斗の方を振り向いた。 快斗はその柔らかな頬に両手を当てて、視線を捕らえる。 「で、青子。食事させてくれねーの?」 極上の甘い声でねだられて、元に戻りかけていた青子の顔に熱が戻る。 真っ直ぐに見つめてくる視線から逃げようとしたけれど、頬に当てられた手は優しいのに力強くて 顔を逸らす事もできない。 「ズルイよ。・・・昔の快斗はこんなんじゃなかったのに。」 快斗の要求に素直に頷くのが悔しくて青子がポツリと零した言葉に、快斗が眉を顰める。 「青子がああいうのが良いって言うならいくらでもそうしてやるけど。 どんなでもオレはオレ、だぜ?」 表情には出ていなかったけれど、快斗の瞳の奥にちょっとだけ傷ついた色を見つけて青子は 後悔した。 青子だって本当は分かってる。 口は悪いけれど、青子が落ち込んでる時に慰めてくれる言葉も。 悲しい時にマジックを見せて、笑顔を取り戻させてくれるトコロも。 抱き締めてくれる温もりも。 子供の姿だった時の快斗と少しも変わっていないコトなんて、青子が1番分かっていた。 それに、快斗と言葉を交わせる喜びを知ってしまったから、昔の快斗に戻って欲しいと思う自分なんて いないコトだってちゃんと気づいてた。 素直に認めるのが気恥ずかしかっただけで。 「快斗、ごめんね。どんな姿でも快斗は快斗だよね。」 自分の口から飛び出した不用意な一言に、言われた快斗以上に落ち込んでいる青子に快斗は 苦笑を浮かべた。 それから、青子の目の前で右手でカウントを取る。 スリー・カウントが終わった後、軽快な音と共に快斗の手に現れたのは出会った日と同じ赤いバラ。 目を丸くして、それからあの日と同じ笑顔をようやく覗かせた青子に快斗は囁く。 「それよりさ、食事はまだなのかよ?腹減った。」 「もうっ。」 不意に見せるこういう優しさがやっぱりズルイと思いながら、青子はテーブルの上に放置されていた ティー・カップに手を伸ばした。 カップに口をつけようとして、青子はじっと見つめてくる視線に気づく。 「目、閉じてて。」 恥ずかしそうな声音と共に快斗の目は華奢な手に塞がれてしまった。 青子の顔が見れないのは残念だけど、快斗は大人しく青子の言うがままにした。 何しろもうすぐ極上の食事ができるのだから。 そして、頬を両手で包まれた後で快斗にもたらされた唇は、週に1度の砂糖菓子よりも ずっとずっと甘かった。 <了> |
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以前にゆうきさん(サイトはこちらです)が観用少女なネタとして「ちびで紳士なキッドを可愛いがって いたら快斗に育っちゃったんだけど、文句を言いつつ拒めない青子ちゃんv」と話されていて、 それがめちゃめちゃツボにはまったんですね。 その時は観用少女自体は読んだ事なかったんですが、この間読んでみたら妄想が爆発しました(笑) それで、が〜っと書いてしまって押しつけさせて頂いた話だったりします。 オレ様な快斗が書いてて楽しくて楽しくて。 ちょっぴりイジワルな快斗に振り回されてる青子ちゃんがどーも好きなようですv 天然な青子ちゃんに振り回される快斗も大好きなんですけど(笑) この設定の2人、自分としてはかなり気に入ってるんですが、ネタが浮かんだらまた書きたいな〜。 ちなみに、原作設定からずれているトコロも多々あると思いますが気にしないで下さい(苦笑) |
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