あぁ、どうか。

この胸の鼓動が隣にいるアイツに聞こえませんように     .





夏祭り





夏休みも終わり間近な日。
お祭りに行こうとやって来た青子を出迎えたオレは、
玄関のドアを開けて固まってしまった。
目の前の幼なじみは紺地に向日葵が咲いている浴衣姿。
いつもは垂らしている髪をアップにしていて、
覗くほっそりとした項の白さに、
ドキリとした。
青子の浴衣姿なんて、去年も見てるはずなのに。
「快斗?」
不思議そうな顔で青子が首を傾げると、
後れ毛が一筋、はらりと落ちた。
いつもの子供っぽい幼なじみの姿はなくて、
妙に胸がざわついた。
「な、んでもねーよ。」
「そう?」
辛うじて口に出した言葉に納得したのかどうか、
呟いた青子はぱっと表情を変えた。
「ね、快斗。どうかな?」
浴衣の袖を持ってクルリと1回転して、
青子が期待に満ちた眼差しでオレを覗き込む。
どこまでも澄んだ瞳に囚われそうになって、
慌てたオレは青子の額をピンと指で弾いて歩き始めた。
「馬子にも衣装ってヤツだな。」
「もうっ!失礼なんだから!!」
小走りにオレに並んだ青子が、
頬を膨らませてオレの腕を軽く叩く。
「だって、本当のコトだろ?」
いつもの顔を覗かせた青子に何故かホッとした。
けれど、軽口を交わせたのも束の間だった。
道を行く同年代の男の視線が、
青子に止まったのに気づいてしまった。
その途端、胸に湧き上がった黒い感情。
それが何なのか理解できねーまま、
イラつく気持ちを抱えて歩くスピードを上げた。





夏の終わりの夜風は少し冷たかった。

風に乗って微かに聞こえる祭り囃子。

でも、賑やかなその音よりも、

間近に聞こえた静けさを呼ぶような虫の声が、

やけに耳に残った。





どんどんと先を歩いて行ってしまう快斗の背中に、
何故か声をかける事ができなかった。
今日、会った時からどこか変だった快斗。
会話なんて片手で数えられる位しかしてない。
今だって不機嫌そうに口元を引き締めていて、
その横顔に拒絶されているように感じちゃう。
いつも何を話してたんだっけ?
何か気に障るようなコトをしちゃったのかな?
思考はグルグルと空回りするだけだった。
いつの間にか地面を見つめていた視線を上げると、
快斗の背中が少し遠くなっていた。
慌てて小走りして追いかける。
下ろしたばかりの下駄の鼻緒が足に食い込んで、
左足の親指の辺りが痛んだ。
いつもだったら置いてかれるコトなんてないのに。
どうして今日はそんなに早足なのよ?
快斗に抗議の声を上げようとして、ふいに閃いた。
・・・そっか。
いつもは快斗が青子に合わせてくれてたんだ。
昔は同じ位の身長だったのに、中学に入ってから、
いつの間にか青子よりずっと大きくなっていた快斗。
足のコンパスだって全然違うのに、
いつだって隣を歩いていた。・・・歩いてくれてた。
青子の足はいつの間にか止まっていた。
青子にはイジワルしか言わないけれど、
ホントは快斗が優しいコトなんて誰よりも知ってる。
なのに、その優しさを当然のように受け取って、
全然気がついてなかった。
何だか情けなくなって、ちょっとだけ視界が滲んだ。
こんな優しい気遣いを快斗はいつから出来るようになったの?
快斗のコトを何でも知っているようで、
実は知らなかったのかなと思ったら急に寂しくなった。
視線の先で、快斗の背中が人込みに紛れようとしている。
イヤだと思った。
1人で先に大人にならないで?
青子を置いていかないで?
揺れる視界の中で消えようとする影に。
けれど、立ち止まったままじゃダメだと思い直した。
目元をぐっと拭ってから、気合を入れる。
青子が追いつかなくちゃダメなんだよね。
「快斗、待って!」
大声で快斗に呼びかけたら、
ビックリしたような顔で快斗が振り返った。
いつの間にか離れていた距離に気づいて、
苦笑を浮かべながら快斗が呼んでくれる。
「アホ子、早く来いよ。」
「うんっ!」
ほらね?
先を行っても快斗はちゃんと待っていてくれるから。
笑顔を浮かべて快斗の所へ駆け出そうとした時、
背中を押されてバランスが崩れた。





倒れそうになる身体に。

あっと思った瞬間。

無意識に手が動いていた。





傾ぐ青子へと腕を差し伸べて、
胸の中に転がり込んできた華奢な身体に。
何かに捕まろうとして出した手に、
がっしりとした胸板を感じて。





心臓が、跳ねた。





気づけば無意識に青子の身体を抱き締めていた。
ちょうど目の前にある髪からは良い香りがした。
いつまでもこのままで居たいと思ったけれど、
人込みに押されて我に返った。
快斗の胸元に顔を押し付ける形になって、
成長している快斗を改めて実感した。
青子の身体に回って支えてくれた腕も、
余っているのが視界の隅に入った。





「ほら、行くぞ。」





柔らかな身体を渋々と手放して、
人の流れに乗って歩き始める。
けれど、追いついて来ない青子を振り返った。
快斗に放されてから急に頬が熱くなった。
気恥ずかしくて動けないでいたら、
今度はすぐに気づいた快斗が立ち止まった。





「・・・しょうがねーな。」

「え?」





繋がれた手と手。





「か、快斗!?放してよ!」

「いいからさっさと歩け。

アホ子がちんたら歩いてると人様の迷惑なんだよ。」

「な、何よ〜っ!」





結局、花火を見る為に立ち止まった時も、

手は繋がれたままだった。

いつもより胸を打つ鼓動は速かったし、

やっぱり繋いだ手は恥ずかしかったけれど、

自分から放す気にはなれなかった。

隣で花火を見ているアイツが嫌そうにしたら、

すぐにでも放そうと思っていたけれど、

そんな素振りはちっともなくて。

アイツも同じ気持ちかなと思ったら、

ちょっとくすぐったくて嬉しかった。





そして、いつまでも落ち着かない心臓を抱えて、

それが何故かなんて考えもしないで。

ただひたすら願っていたのは1つだけ。



どうか花火がまだ終わりませんように     .


<了>




Talk用に考えてた話なんですが、レイアウトに凝ってみたくてこちらに回しました。
あまり中身がない上に、読みにくかったらすみません(汗)
もうすぐ8月も終わりだな〜と思ったら無性に書きたくなったんですが、相変わらず描写が下手くそで・・・。
一応、中学生のつもりなんですが、ちゃんと中学生に見えてます?
目指したのは甘酸っぱいドキドキな感じでした(笑)
いつも見慣れている幼なじみが違って見える瞬間というか。
もっとこう雰囲気のある話を書けるように精進します〜。



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