|
温かな日差しが降り注ぐ休日の午後、快斗はリビングのソファーに座り雑誌を 読んでいた。 静かな部屋の中、聞こえるのは騒がしいテレビを避けてつけられたラジオと 時々ページをめくる音だけ。 リビングにつながるキッチンからは、青子がお茶を用意している音が聞こえる。 穏やかに流れる時間に、平和だな〜なんてしみじみと思ってしまう。 「快斗、お茶にしよう。」 「おぅ。」 青子がトレイに載せた2組のティーカップとクッキーが載った皿を持ってきた。 快斗は青子が隣に座るのを待ってから、ゆらゆらと湯気を上げる紅茶に口をつけた。 一口飲んでから、早速クッキーへと手を伸ばす。 「それ、青子が作ったんだよ。どう?」 快斗の反応を窺うように、青子が隣の快斗の顔を覗き込んだ。 「うめーよ。」 快斗の好みに合わせたのだろう、市販のモノよりも幾分甘めなそのクッキーは、 青子の心遣いのおかげでとても優しい味がして、快斗は素直に褒めた。 「ホント?良かった!」 青子は快斗の言葉にパッと顔を輝かせて、自分もクッキーに手を伸ばした。 クッキーの出来栄えに満足そうに頬を緩めた青子を見て、口元に自然と笑みを 浮かべてカップを傾けていた快斗の耳に、ふとラジオの音が入り込んだ。 「この曲って・・・。」 ラジオのDJが紹介した曲名と聞いたことのあるイントロに、快斗が思わず声を上げた。 それを聞いて、青子もラジオから流れる曲に耳を傾けた。 「懐かしいね〜。前に流行ったよね?」 「あぁ。」 そのまま2人、しばらく曲を聞いていたら、ふと快斗が口を開いた。 「・・・この歌を初めて聞いた時、くっせー歌だなって思ったんだよな。」 「え〜、良い歌じゃない!青子は好きだよ。」 快斗の言葉に青子が軽く口を尖らせながら抗議した。 いつまでも変わらない青子の仕草が可愛くて、快斗はどこか優しい瞳をしながら 同意する。 「あぁ、何回か聞いて良い歌だなって思った。 ・・・サビとか、オレの気持ちをすっげーよく表してるなって。」 ちょうどその時、曲は最初のサビに差し掛かっていた。 部屋の中に男性デュオの甘い歌声が響く。 その歌声は、誰よりも近いこの場所で君を守り続けると誓っていて。 それを聞いた青子が頬を赤く染めて俯いたのに、快斗は小さく笑い声を漏らした。 付き合い始めた頃は幼なじみの延長のようで、妙な意地を張って青子にだけは 甘い言葉なんて全然言えなかった。 けれど、幾つもの季節を共に越えてきて、快斗の方は漸く青子に甘い言葉を囁くのに 慣れたというのに、青子は未だに慣れずに照れてばかりで。 いい加減に慣れろよな〜とあきれる気持ちと共に、そんな青子も可愛くて愛しく 感じてしまうのだから、相当青子にイカれてるらしい自分がおかしかった。 「何よ〜、また青子のコトをからかってるんでしょ!?」 快斗の笑いの意味を誤解した青子が、拗ねて快斗からぷいっと視線を逸らした。 「ちげーよ。ずっと前から、それこそガキの頃から思ってたぜ? 青子をずっと守っていきたいって。」 自分の手を掬って左の薬指で光を弾くプラチナ・リングに口付けた快斗に驚いて、 青子が振り返った。 未だに華奢な手を握ってリングに口付けたまま、快斗は青子の顔を覗き込んで 視線を捉えた。 真っ直ぐに向けられた真摯な表情に快斗の本気が分かって、青子は先程以上に 頬に熱が集中するのを止められなかった。 真っ赤になって絶句した青子にクスクスと笑いながら、快斗は青子の手を解放する 代わりに華奢で柔らかな身体を抱き寄せた。 頭を寄せた快斗の胸から聞こえる心臓の音に気持ちが落ち着いて、青子は手を 伸ばしていつの間にか自分よりもだいぶ大きくなっていた背中を抱き返した。 お互いに想いが通じ合ってからしばらくは、こうして抱き締められてもドキドキして 落ち着かなかったのに、今ではこんなにも安心できる。 それだけの時間が過ぎたのかと思うと、妙にくすぐったいような気持ちになった。 ずっと変わらずに快斗が傍にいてくれる事が、傍にいれる事が嬉しかった。 幸せな感覚に浸りながら、青子はゆっくりと口を開いた。 「青子にも快斗の事を守らせてね?」 「そんな必要ねーよ。」 快斗に守られているばかりでは足手まといのようで、そんな自分は絶対にイヤだから、 何の力も持っていないけれど自分の持つ全てをかけてでも快斗を守る覚悟で青子が 告げた言葉は、快斗にあっさりと否定されてしまった。 「なんでそんなコト言うの?快斗に守られてばっかなんて、青子はイヤだよ!」 自分の気持ちを拒絶されたみたいで悲しくなった青子が身体を離そうとしたら、 今までよりも強い力で快斗にぎゅっと抱き締められた。 「違う。青子の気持ちが嬉しくないんじゃなくて。 オレ、もう青子に守ってもらってるよ。ずっと前から。」 あの時計台で出会った時からずっと。 父親を亡くして悲しみの涙にくれた夜も。 怪盗キッドとして盗みを繰り返し、父の死の真相の手がかりが何も見つからずに 焦っていた時も。 青子に隠し事をしている辛さに彼女の傍から離れようとした日も。 組織を相手に危険を潜り抜ける日々に疲れた時も。 全てを青子に告白したあの晩も。 青子はいつも優しく微笑んでくれたから、自分の心は癒され救われていた。 きっと青子のあどけない笑顔に守られていたんだと快斗は思う。 「青子が笑ってくれれば、それだけでオレは救われてるんだ。 だから、青子の笑顔が消えないように守るのは、オレの役目なんだよ。 青子はそのままで居てくれれば良い。」 耳元で囁く優しい声が嬉しくて青子の目に涙が浮かんだ。 それを快斗に気づかれないように彼の温かな胸に顔を押しつけたけれど、 昔から傍にいる幼なじみにはバレバレだったらしく。 快斗は青子を離して柔らかな頬に触れて、綺麗な瞳に滲む涙をそっと拭った。 それから、イタズラっぽい表情を浮かべて青子を覗き込む。 「ずっとオレの傍にいてくれる?」 「当たり前でしょ!快斗がイヤだって言ったって、ずっと傍にいるんだから!」 すぐに力強く返してくれた青子の言葉が嬉しくて、表情を優しく和ませながら快斗は 青子に唇を寄せた。 青子の真っ直ぐな瞳が閉じられた瞼に隠されて。 唇を重ねる2人を祝福するように、ラジオからはラヴ・ソングが流れ続けていた。 <了> |
|
Image Song:君をさがしてた(Song by CHEMISTRY) 暑い夏に負けない位、ラブラブな話になってビックリ(笑) 快斗って付き合い始めの頃とか、絶対青子ちゃんに甘い言葉なんて言えないと 思うんですよ。本命に弱いタイプと見た!(笑) 慣れたらバシバシと言ってくれそうなんですけどね(笑) という事で、この話は未来予想図です。 イメージ的には新婚さん?(笑) 自分の中での快青の最終形みたいな感じです。 |
|
|
|