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「・・・さんはどうした?」 ふわふわと海の中を漂うような意識の中に、穏やかな低い声が滑り込んでくる。 ええっと今どこにいるんだっけ? オレは何をしてる? 「おば様には客間で休んでもらったよ。」 答える声が青子のモノだと気がついて、一気に記憶が蘇ってくる。 そういえば、青子にその、プ、プロポーズした後、警部と約束したから青子んちに来たんだっけ。 そしたら、何故かお袋まで居て、酒やら料理やら用意されていた。 ビックリしたオレにしてやったりと笑った警部はとても楽しそうだった。 で、それから今日は無礼講だと宴会が始まった。 妙に陽気な警部とお袋から(こりゃ絶対先に飲んでたな)勧められる酒を断れる訳もなく、 許容量の限界を超えるまで酒を飲んだオレは敢えなく中森家のソファーに沈没してたってワケだ。 まだ酔いが醒めてないのか、宙に浮かんでるかのような気分が心地良い。 それは先ほどまでの宴会が楽しくて幸せだったからかもしれねーな。 酒のつまみはオレと青子の婚約祝いと・・・親父のもう1つの顔の思い出で。 懐かしそうに語る警部にお袋も時たま口を挟んで、今まで知らなかった親父の一面を知る事ができた。 本当はずっと前から警部に聞きたかったけれど、何故かそうしてはいけないような気がしてた。 でも、今日警部と話して何かが吹っ切れた。 ソレはずっと引きずっていた白い影かもしれねーし、心の中にあった警部に対する罪悪感だったかもしれねー。 もちろん全部なくなったという訳ではないけれど。 「快斗は・・・ここに寝かせておくしかないか。」 「ワシが運ぶか?」 「お父さんもまだ足元フラフラしてるのに無理だよ。」 「大丈夫だと思うが・・・。まぁ、無理するのは止めておくか。」 オレの意識が戻っているのに気づいてねーのか、頭の上でオレの処遇についての話が進んでいた。 オレなら大丈夫だと起き上がろうとした時だった。 「それにしても、快斗君がつぶれているのは初めて見たな。」 「お父さん達が調子に乗って飲ませ過ぎるからでしょ! 明日、今度の公演の打ち合わせがあるって言ってたのに・・・。」 こんな会話が耳に入って青子がなんか奥さんみてーだよなとふと浮かんで、もうすぐ現実になるんだよなと 思ったらもうダメだった。 急激に頬が熱くなる。 こんな顔でぜってー起きられねー!! タヌキ寝入りを決め込んだオレの上では中森親子の会話が続く。 「はは、お祝い事なんだから大目に見てくれ。」 形勢が悪いと思ったのか、ごまかし笑いをした警部が話を変えた。 「そういえば、今日、快斗君が会いに来てくれたよ。」 「やっぱりお父さんのトコに行ってたんだ。」 「やっぱり?」 「だって、帰ってきたら宴会の準備がしてあるんだもん。おば様まで呼んでるし。」 青子にしちゃナイス推理、ってこれだけお膳立てされてちゃ当然か。 「それで、快斗はなんて?」 「あぁ、『本当にオレで良いんですか?』ってね。」 「・・・バ快斗なんだから。」 そう呟いた青子の声も、オレの頭を撫でた手もとても優しくて。 今、青子の顔を見れねーのを悔しく思った。 「青子もお父さんも気にしてないのにね。」 「きっと快斗君がそう思う事が大事なんだよ。」 「うん。それも分かってる。」 静かに交わされる声に涙が出そうになる。 ちゃんと分かってくれる人達がいるオレは、きっと世界一の幸せ者だと実感した。 「青子、幸せになりなさい。」 改まった声で警部が言う。 父親の愛情がいっぱいに篭った言葉。 「なれるよ。だって、快斗と結婚するんだもん。」 それになんの躊躇いもなく答えている青子の気持ちが嬉しかった。 「そうか、そうだな。」 大きく頷いてくれているだろう警部の姿が浮かんだ。 「ねぇ、お父さん。」 「なんだ?」 「今まであり・・・。」 「待った。それは言わんでいい。 苗字が変わったとしても、青子がワシの娘なのには変わりはないだろう?」 「うん!お父さん、大好きv」 「あ、青子〜。」 気配から青子が警部に抱きついたんだって分かる。 悔しいけど、今日のところは目を瞑ろう。 「それじゃ、そろそろ寝るか。」 「青子は快斗に毛布を取ってくるね。」 「あぁ。」 そうして、2つの足音がリビングを出て行って、軽い足音だけが戻ってくる。 そっとかけられた毛布と同時に頬に落ちた柔らかい感触。 「快斗、おやすみ。」 我慢できずに離れていく青子の気配に手を伸ばして抱き締めた。 「か、快斗、起きてたの?」 オレが寝ていると思っていた青子は急に自分の行動が恥ずかしくなったのか、 オレの腕の中で頬を赤く染めて睨む。 そんな顔で睨んだって、まったく効果はねーっての。 「途中からな。」 「盗み聞きなんてダメなんだから!」 「わりぃ。親子の会話を邪魔しちゃ悪いかなって思ったからさ。」 「・・・邪魔じゃないのに。」 ぽつりと呟いた青子に笑みが浮かんだ。 「ね、快斗。起きたなら客間にお布団ひこうか?」 「いいよ。この年になってお袋と一緒ってのもなんだしな。」 「え〜、いいじゃない。せっかくなのに。」 「お袋、もう寝てるんだろ?起こしたらぶっ飛ばされるぜ。」 おどけたように言うと、青子も無邪気に笑い声を上げた。 そんな青子を見ていてついイタズラ心が顔を出す。 「青子の部屋だったら喜んで行くんだけどな。」 「バ、バカなコト言わないでよ。」 「なんで馬鹿なんだよ?オレ達、婚約中なのに。 誰も文句は言えねーと思うけど?」 青子の顔を覗き込みながら言うと、ぼんっと音をあげるような勢いで青子が真っ赤になる。 ホント、からかいがいのある奴。 笑っているとムッと頬を膨らませた青子が、オレの腕を振り切って立ち上がった。 「青子、もう寝るから!」 離れてしまった温もりがちょっと寂しかった。 そのまま、部屋の電気を消して出て行こうとした背中に声をかける。 「なぁ、青子。」 「何よ?」 ドアを半分だけ開けた青子が振り返る。 「青子はオレが絶対幸せにするから。」 今日の夕方、警部にも誓った事を青子にも誓う。 一瞬、驚いたように目を見開いた後、青子はふっと柔らかく笑った。 「バ快斗。2人で幸せになろう、でしょ?」 どちらか一方が幸せにするんだと頑張るのではなくて。 幸せは一緒に作っていくモノ。 「そう、だな。」 青子の言葉を自分の中にゆっくり浸透させて噛み締めるように頷いたオレに、青子が飛びっきりの笑顔を 見せてくれる。 廊下から差し込む光に照らされた青子は、とても綺麗だと思った。 「それじゃ、快斗おやすみ。」 「あぁ、おやすみ。」 パタンとドアを閉めて青子が出て行った後には、静かな暗闇と静寂が訪れる。 ソファーに寝転びながら、今夜はきっと幸せな夢が見れるとオレは確信していた。 <了> |
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+++++++++++++++++++++++++++++++++ 青子ちゃん欠乏症に陥って書いた続きです(笑) だってこの話の本編が快斗と警部ばっかで、全然華がなかったんだもん(笑) この続きも夢見すぎですね〜。でも、書きたかったから書いちゃいましたが。 この2つを通して、私がいかに警部が好きか分かって頂けたかと思います(笑) そういえば、快斗ってお母さんのこと、どう呼んでるんでしょ? 母さんかお袋か悩んだんですが、盗一さんの事を親父と呼んでいたので 今回は合わせてみました。 でも、ちょっと違和感あるなぁ。そのうち直してたりして(笑) ちなみに、こっちの話で書きたかったのは最後のトコロの青子ちゃんの台詞。 快斗ってばホント幸せ者だ、と思いながら書いてました(笑) あっ、今思ったんですけど、ひょっとして快斗がプロポーズするトコロを 期待していた方いらっしゃいました?期待外れですみません(苦笑) +++++++++++++++++++++++++++++++++ |
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