「さくらんぼの茎を口の中で上手く結べると何かあるの?」
無邪気な笑顔で聞いてくる幼なじみの恋人に、裏ではポーカーフェイスが身上の怪盗なんてやっている
快斗も、思わず表情を崩して固まってしまった     .


Cherry Kiss


コトの発端は学校帰りに青子の家に寄った時のこと。
美味しそうだったからつい買っちゃったんだと、青子がおやつ代わりにさくらんぼを出してきたのだ。
快斗が水の粒をきらめかせている小さな赤いさくらんぼを口の中に放り込むと、甘酸っぱい味が口の中に
広がった。
(やっぱり旬のモノはうめぇよな〜。)
そう思いながら、快斗はさくらんぼに更に手を伸ばしつつ青子に視線を向けた。
いつもならうるさい位に美味しいね〜と感想を言うであろう青子が、今日は妙に静かだったからだ。
快斗の向かいに座っている青子は懸命に口をもぐもぐとさせていて、快斗は軽く首を捻った。
「青子、何やってんだ?」
訝しげな快斗の問いに、青子は口の中から何やら引っ張り出すと皿の脇にそれをそっと置いた。
快斗がちらりとそれに視線を投げると、それはさくらんぼの茎のようだった。
「あのね、さくらんぼの茎を口の中で結べるか試してたの。」
「なんでまたいきなり?」
「今日、みんなでお弁当を食べてたら、さくらんぼをデザートに持ってきた子がいてね。
 口の中で茎を結べるか結べないか話題になったの。」
「ふ〜ん。」
そんなことだろうと思ったと快斗は気のない返事をしたが、青子は気を悪くする事もなく話を続けた。
「折角さくらんぼがあるんだから試してみようと思ったんだけど、全然できないよ。
 ね、快斗はできる?やってみて?」
青子にねだるように頼まれて快斗がイヤと言えるはずもなく、渋々とさくらんぼを1つ取って口の中に入れた。
さくらんぼの茎と格闘すること数分。
「ほら、できたぞ。」
綺麗に結び目ができた茎を快斗が口の中から出して青子に見せた。
「うわぁ、すごいね!!青子は全然できなかったのに。」
「これぐらいたいした事ねーよ。」
素直に褒める青子にそう言いながらも、快斗の顔が得意そうな表情になる。
が、一瞬の後にその表情を崩してフリーズする事になった。
「そうそう、快斗に聞こうと思ってたんだけどね。
 さくらんぼの茎を口の中で上手く結べると何かあるの?」
という青子の爆弾発言によって。
「おまっ・・・!」
思わず絶句して快斗は青子を凝視した。
(誘ってんのかよっ!?)
けれど、目の前の恋人は快斗にいきなり見つめられて、きょとんとした顔をしているだけで。
そんな訳はないよなぁと快斗は内心深い溜め息をついた。
「快斗、どうかしたの?」
「何でもねーよ。」
投げやりな快斗の答えに小首を傾げつつ、青子は更に問いを重ねた。
「それより、快斗は知ってるの?
 さくらんぼの茎を上手く結べると何なのかって。」
「〜〜〜それをオレに言わせんのかよっ!」
もちろん快斗は青子の問いの答えは知っていた。
さくらんぼの茎を口の中で結べる=キスがうまいってコトを。
けれど、自分の前で彼氏にさくらんぼの茎を結ばせておいて、どうして無邪気にその意味を聞けるのか。
そして、聞かれた方はどんな顔して答えれば良いというのか。
(あ゛〜、ほんとお子様っ!!)
頭をかきむしりそうな勢いで低く唸った快斗に、青子は漸く少し不安になったようだった。
「ねぇ、そんなに変な事なの?」
「・・・お弁当を食べた時にみんなに聞かなかったのかよ?」
「それがね、みんなは知ってるみたかったんだけど、青子には教えてくれなくて。
 で、黒羽君に教えてもらったらってみんなに言われたんだけど・・・。」
どんどん声が小さくなっていく青子を見ながら、快斗は大きく息を吐いた。
皆にからかわれている青子が目に浮かぶようだった。
こういう恋愛事に関しては幼い所のある青子が可愛らしくて、ちょっかいを出したくなる気分はよく分かるが、
自分にまで影響が及んで振り回されてしまうのは面白くない。
非常に面白くない・・・・・が。
ここで快斗は考えを改めた。
折角、美味しいネタ振りをしてもらったのだから、それを利用しない手はないではないか、と。
口元ににやりと人の悪い笑みが浮かんだ快斗に、青子は気がつかなかった。
「・・・なぁ、やっぱり教えてやろうか?」
「え?教えてくれるの?」
「あぁ、オメーがどうしてもって言うんならな。」
「うん、教えて欲しい。」
「じゃあ、こっち来いよ。」
ちょいちょいと手招きをする快斗に逆らわず、青子は快斗の隣に来てソファーに腰掛けた。
そして、傍らの恋人に期待に満ちた視線を向けた。
「ね、それでどういう意味なの?」
「それはだね、青子ちゃん♪」
「え?・・・んんっ!?」
青子はいきなり力強い快斗の腕に抱き寄せられて唇をふさがれた。
いつもより甘い深いキス。
最初は抵抗するように快斗の肩を押していた青子の手も、キスが続くうちに力が入らなくなり快斗の服を
掴んでいるだけで精一杯になった。
自分にもたれるようになった華奢な身体に満足しながら、快斗は漸く青子を解放した。
青子はしばらく放心したような様子だったが、そのうちはっと気がつくと眼差しをきつくした。
「バ、バ快斗!!いきなり何するのよ〜っ!!」
赤い顔で怒っていても全然迫力のない青子に、快斗から思わず笑みがこぼれる。
「なんで笑うのよっ、バ快斗の大バカ!!もう知らないっ!!」
そう言うと、青子はくるりと快斗に背を向けてしまった。
(あちゃ〜、こりゃ相当怒ってんな〜。)
苦笑を浮かべつつ、快斗は青子の細い背中を後ろから抱き締めて甘い声で耳元に囁いた。
「でもよ〜、元はと言えばオメーが変な事を言い出すからだぜ?」
青子はしばらく快斗の腕から逃れようともがいていたが、力では到底敵わない恋人に放す意思がないと
分かると大人しくなった。
「・・・・・変なコトって何よ〜?」
しばらくの沈黙の後、渋々と言葉を返してきた青子に快斗の顔が緩んだ。
「さくらんぼの茎を結べると何なのかって聞いてきたじゃねーか。」
「快斗、その質問に答えてくれなかったじゃない。」
「ちゃんと答えたぜ?実践してやっただろ。」
快斗の言葉にしばし考え込み、ようやく答えに思い当たった青子は、穴があったら入りたい位
恥ずかしくなった。
お昼を食べていた時の皆の意味深な笑いの訳もようやく納得した。
(どうして恵子も教えてくれなかったのよ〜〜〜っ!)
快斗にとんでもない事を聞いてしまった気恥ずかしさに、青子は思わず心の中で親友に八つ当たりしてみる。
「散々、煽ってくれるんだもんなぁ。」
「べ、別にわざわざ実践してくれなくても良かったわよっ!」
からかう様な快斗の声音に、反射的に青子は答えていた。
腕の中の青子が意地をはっているのが分かって、快斗はついつい意地悪をしたくなってしまう。
「ふ〜ん、実践しなくても青子はもう充分分かってるって訳だ。」
これ以上赤くはならないと思った顔を更に赤くして、思考回路がショートした青子は固まってしまった。
自分の言葉に反応してフリーズしている青子が可愛くて、快斗はイタズラ心を出してさくらんぼよりも
真っ赤な青子の頬にちゅっと口づけた。
復活した青子が快斗を張り飛ばすまで、あと数分はかかりそうだった。


<了>




自らサクサクと墓穴を掘ってはまってしまった子羊・青子ちゃんと美味しく頂いちゃった狼・快斗君の話(笑)
ちょうどさくらんぼを食べたので、思いついて書いてみました。
旬の話なのでTalkに書こうかなとも思ったんですが、可愛い壁紙があったのでこちらに載せてみたり。
この話は書いていて妙に気恥ずかしかったです(笑)
こういう話もO.K.ですか?ラブラブ過ぎたかなぁとちょっと心配だったりします。
でも、シリアスというか微妙な関係のモノばかり書いていると、たまにこういうのを書きたくなるんですよ〜(笑)



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